名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

名古屋,豊橋,東海三県中小企業法務を行っています。

№1341 立退料5000万円,でも権利ではありません。

№1341 立退料5000万円,でも権利ではありません。

 これは東京都中野区の土地(202.97㎡)について明け渡し請求された事件だ。この土地には昭和8年頃の建物が建っていた。地代にも争いがあり,地主側は4万円程度,借地人側は3万円だ。東京都中野区内でこの地代は安い。

 この土地に大型スーパー立地計画が持ち上がった。そのために地主としては土地を明け渡してもらい,大型スーパーに土地を貸したいと考え明け渡しをもとめたのである。

 土地や建物などについては借地借家法という法律があって,住む側は強力に保護されている。俗に居住権と言われているものだ。これは俗語であって,法律的には居住権という用語はない。しかし,私はわかりやすいので「居住権」という言葉を使う。

 これは,土地,建物というのは居住や営業と結びついていて,株や金のように簡単な取引とは訳が違う。ある種の社会保障的な視点で土地利用者の保護を図っている。こうして生活や事業の安定を図ることで経済の発展に資する面もある。

 一方で,東京都内のような都市部については,常に新しくすることで発展する面も持っている。古いものを打ち壊し,新しい都市を作り上げていくという面もある。そのためには土地の流動性も求められる。

 土地利用の安定と土地の流動性の確保という二つの相反した利益を法律は「正当事由」という言葉で調整を図っている。つまり,土地利用者が自己利用として必要だという利益と,土地の有効活用を利益を比較して,地主側の必要が高いとすれば明け渡しを認めるし,自己使用の必要が高いとみれば明け渡しを否定する。

 法律の考えは居住の利益を重視している。しかし,立退料で補完すれば地主側の利益が高くなると言う考え方をとっている(最判H6.10.25)。つまり立退料をきちんと支払えば明け渡しは認める場合があるというのが判例の立場だ。本件中野区の事例も5000万円を補完することで立ち退きを認めた(東京地裁H25.3.14,判時2204号47頁)。

 注意を要するのは立退料というのは権利ではないという点だ。出てってくれるなら立退料を支払いましょうという貸主側の自主的な支払いである。だから出てってやるから立退料を支払って欲しいと要求する権利はない。立退料は権利ではないというのはこの意味だ。