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№1315 浮世の浮き草

№1315 浮世の浮き草
 年初,京都大学時代の友達が集まって飲み会だった。私は法学部だが,あと二人は文学部で今は英文の研究者になっている。

 もう一人の友人Tは,大学で心理学をやっていたが,今はなんだかわからない。変なやつで,大学院を途中でやめてしまい,陶器のことを調べたり,アンコールワットの修復に携わったり,やりたいことだけやって生きている。

 特に学位がある訳でもなく,名誉があるわけでもない。外から見たらぶらぶらしているだけのいい身分のただのおっさんだが,私たちの仲間からの尊敬は厚い。私たちがこうした毎年のように集まるのも彼に会いたいからだ。

 学生時代,私たちは同人誌を作り,どうでもいいような文書を書いては楽しんでいた。何となく哲学的であったり,何となく文学的であったりした。私たちは世俗的なことに対して何となく超然としたいと思ったりしていた。しかし,これは世俗について行けないいいわけだったかもしれない。自分たちだけの箱庭のような世界に逃げ込んでいるようなところもある。

 大学を卒業して,私は弁護士になり世俗のまっただ中にいる。ほかの連中も大学の先生になって,大学生に英語を教えたりする。大学に対する文科省の圧力が強くなったとか,大学教授も論文の数で評価されるとか愚痴が出る。「英語を教えろと言ったって,英語を使う環境にないのだから無理な話だ。」と嘆いている。ひ弱な彼らのところにも浮世の風が吹いている。

 ただ,Tだけは別だ。彼はいまだ定職につかずぶらぶらしている。「最近は数学が好きになった。」などと浮世離れした話をする。「チベットのどこかみたいに鳥葬がいい。俺が死んだら散骨してくれないか。」と,どこまでも気楽なことを言う。

 どうしてこんな気楽な人生を送ることができるのか私はいまだにわからない。常人とは違う超然していられる才能があるのか,あるいは本当は彼には彼のすごい葛藤があって,その上の結論なのか誰も知らない。

 酔っ払っているのでどうなったかよく覚えていないが,なぜが話はにパヒュームの話題になった。メンバーの一人はパヒュームの大ファンだ。わざわざヨーロッパ公演にも追いかけていったらしい。パヒュームは彼の人生を変えたのだそうだ。そんなもんかね。

 私は「きゃりーぱみゅぱみゅ『つけまつける』のライオンなどはどう見てもアリスだ。」とかねての説を唱えた。さらに「『つけまつける』は『カリガリ博士』にもさかのぼれると思う。」と主張したところ,「ほう,『カリガリ博士』」までさかのぼりますか。」と反応がいい。さすがに文学系だけあって「カリガリ博士」を知っている。

 ということで,私たちは年始は浮世の浮き草のようなTに捕まって,どこまでも小さな,箱庭のような世界を楽しんでいた。