名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

名古屋,豊橋,東海三県中小企業法務を行っています。

№1204 会社分割の濫用事例

№1204 会社分割の濫用事例
 会社分割を債務逃れのために利用する手法に対して、これを問題視する最高裁判例が最近出た(最判H24.10.12判時2184号144頁、一審大阪地裁H21.8.26、二審大阪高裁H21.12.22)。

 会社分割は一つの会社を2つに分割する制度で、既存の会社を利用してそこに、会社の一部を吸収させる方式と、分割と当時に新しい会社を新設する方式と2つの方式がある(会社法5章)。普通は新設分割が多い。

 分割した場合、旧会社(分割会社)の債務はそのまま残し、財産だけ新会社(新設会社、吸収会社)に移転することができる。「えっ、本当?」とシロウトでも疑問が湧く。借金だけ残し、いいとこだけ新しい会社に移したのでは旧会社の債権者としてはたまったものではない。

 このような抜け駆け的な財産移転の手法に対して、民法は「詐害行為取消権」という制度を設けている(民法424条)。法律上は「詐害意思ある責任財産の減少行為を取り消す。」と説明するが、簡単に言えば、財政破綻しているものが財産が流出したら、流出先に流出財産の取り戻し、あるいは責任追及ができるという制度だ。

 確かに、濫用事例の場合、借金逃れが見え見えなので社会的に許されないし、最高裁判所もそれを許さなかった。最高裁判例は分割行為そのものを取り消すというような判断をしていると評釈されている。

 このような判例が出た以上、中小企業法務としては会社分割にも最新の注意を要することになる。この「詐害性」を回避するためにはどうしたらよいかということになるだろう。

これは組織分割の目的が正当であることにつきるように思われる。
① 事業を区分けして分社化し、それぞれ独立して事業にあたらせることで経営を発展させたり、事業承継をやりやすくするということがある。こうした、「経営上の合理性」が占めされる必要があるだろう。

② この場合、銀行の借金を逃れるために、旧会社に銀行債務を残し、新会社に引き継がないなどという目的は口が裂けても言えないが、当該債務が残された事業に関連して作られたものであれば、残すことにそれなりに合理性がある。例えば、A事業について設備投資のための負債であれば、A事業と共に残るのが筋だと思われる。

③ 分割する事業の内容も重要だ。詐害事例の多くは、「運送業」とか、「賃貸業」とかいかにもとって付けたような事業を無理矢理作り出した事例が多い。例えば、「仕入」と「製造」あるいは「小売」と分割して分けるというは許容の範囲のように思われるが、その場合でも実態は必要だ。

④ 一定時間をかけて進めることも重要だろう。つまり、部門会計を明確にして事実上分割経営の実態を作りあげ、その仕上げとして分割があるというような演出は必要のように思う。