№1214 従業員の不正経理と罰金
従業員が不正経理によって会社の財産を横領することがある。会社は社員の横領によって財産を失うばかりでなく、重加算税や罰金などの罰則を受けることになる。会社にとって余りにも過酷な措置と言える。
この事件は、社長付けの肩書きのある経理統括者が架空の材料費を計上して10億円の脱税を行ったという事例だ。このような脱税がある場合、脱税行為をした張本人は処罰される。それだけでなく、両罰規定と言って個人のみならず、会社も併せて罰金刑に処せられることある(改正前法人税法164条1項)。本件でも2億4000万円の罰金が法人に課せられた。
いろいろ論点があるが、問題なのは架空材料費の経理操作が、もっぱら、この経理統括者の横領行為を隠ぺいするために行われている点だ。経営者から見れば、横領行為をもって、会社の脱税行為と見られるのははなはだ不本意だろう。経営者そのものは横領行為に荷担したわけではない。
この点、最高裁は冷たい。横領行為であろうと何であろうと、「業務に関して」行われたのであるから脱税は脱税だというのである。
最高裁は次のように判示する。
「所論指摘のように丙が秘匿した所得について自ら領得する意図を有していたとしても、そのような行為者の意図は、「業務に関して」の要件に何ら影響を及ぼすべきではないと解するのが相当である」(最判H23.1.26判時2173号145頁)。