名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

名古屋,豊橋,東海三県中小企業法務を行っています。

№1152 黄さんの会社が意味するもの、上海ローカル企業の実情(その2)

№1152 黄さんの会社が意味するもの、上海ローカル企業の実情(その2)
           → №1151からの続きです。

2. 黄さんの会社が意味するもの

 この会社は現在の中国、日本中国の関係が凝縮されており非常に興味深い。

 労働集約型産業が国内で限界を感じ、インドネシアに「労働力」を求めて海外進出したことは何を意味するだろうか。それは、第一に中国の産業構造が変化しつつあることが伺われる。
 中国経済が発展して貧富の格差が著しく進行した。中国政府はその是正のために、社会保障の充実、最低賃金上昇を全国的に行うことを決定した。この決定は中国経済が高付加価値化をめざす産業構造に変化しつつあることを意味するだろう。高い賃金に対しては労働の生産性の向上、つまり労働が持つ価値を向上させるしかない。それは、設備自体の自動化であったり、商品の高付加価値化をめざすことになる。また、労働者の生活水準の向上は中国国内の消費を活性化させる可能性がある。高付加価値化により内需を伸ばす一方で、国際競争力を高めて経済を成長させるというのが中国政府の戦略なのだろう。あるいは、これは経済発展の歴史的必然なのかもしれない。
 
 もう一つ、見落としてはならないのは中国中小企業の実力の向上である。
 中国巨大企業が既に大きな国際競争力を手に入れていることは周知のことがらである。中小企業についてもインドネシアに対して150万ドルの投資を行い、自社の社員を派遣するだけの経済力、組織力を持っていることは実に象徴的であると言わなければならない。この合板企業では社員を統制し、一定の経営理念を持ち、後継者を養成しようとしている。企業が持続するためには企業が社会に受け入れられる必要がある。そのためには顧客を作り出し、顧客の要求に応じた品質を維持し、組織を維持、向上させるだけの従業員に対するマネジメントが必要だ。そうした実力が中小企業のレベルにも備わっていることは今後の中国経済を考える上で見逃すことはできない。

 三番目の教訓は日中企業の連携のあり方を示す点にある。
 この企業は創立時より日本企業を顧客として出発している。日本企業が求める水準を実現し、JAS認定企業にもなっている。日本企業からの信頼をかちとり、専属的な契約関係を締結した。グローバリゼーションによって市場の融合化が進んでいるが、グローバリゼーションにあっては企業連携の基準はお互いの企業が補い合えるか、企業連携によってイノベーションを勝ちとることができるかという点にあって、当該企業がどこの国にあるかは本質的な要素ではない。パートナー企業が中国にあることは、依然安い賃金、大きな消費地にあるという点で中国企業が有利だからだ。今回の企業の日中企業のあり方は連携のモデルの一つとして意義深いのではないだろうか。