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№1151 黄さんの工場、上海ローカル企業の実情(その1)

№1151 黄さんの工場、上海ローカル企業の実情(その1)
 用があって上海に出かけていた。
 今回のツアーではついでに上海のローカル企業も訪問し、多くの実りがあった。

1. 中国合板企業

 最初に訪問したのは上海に工場を持つ合板工場だ。1999年から発足し、2000年から本格操業を始め ている。社長黄さんの父親は材木関係の事業を行っていた。黄さんは北海道に留学してた頃に日本の合板会社と交流が進み、独立して自国で会社を経営するよう勧められた。それが縁で設立して、今日に至っている。

 この会社は日本向け輸出に特化しており、日本のJASの認定工場にもなっている。外国企業としては最初の例だということだ。会社は順調に成長したようで、2006年には350人の従業員をかかえる規模になっている。現在は上海市内2カ所に工場を持っているが、上海市内の工場立地区域に新たな開発が進められることになり、中国国内の地方に新工場移転計画を進行させている。社員数は現在160人程度の社員となっている。黄さんは企業を持続、発展させいずれは後継者をちゃんとしたいと考えている。

 取引関係は日本に特化しており一時は北海道の会社6社ほどとの取引があった。しかし、リーマンショック時には日本向け輸出が激減したため、米国との取引を始めた。しかし、現在は日本の会社1社のみとの取引となっている。この日本の会社とは非常に強い信頼関係で結ばれている。専属的な契約を締結し、日本の会社は自社での合板生産は止め、全て中国の企業に発注している。逆に中国の会社もこの日本の会社に対してのみ製造販売している。

 この会社は現在材料、人材確保の問題に直面している。
 もともと、中国製のポプラを材料としていたが、近時生産量が減少して材料確保が難しくなっている。現在はかなりの部分をインドネシアなどから輸入している。

 合板製造工場は木材の粉じんが舞い上がっているなど、労働環境は必ずしもよいとは言い難い。多くの単純労働者を要する集約型事業である。かつては上海市内から多くの若い人材が集まっていた。現在は人材がなかなか集まらず、募集対象年齢も55才まで引き上げている。人材確保のためには労働環境の向上や社員の意識改革も必要だ。本件会社では会社はみんなの「家」という考えで家族的な関係を作りあげたいという。労働力不足に加えて近時の賃金の上昇が企業経営を圧迫している。中国では最低賃金が15%引き上げられた上、社会保険料の負担の増加している。

 そのため、この会社では最近150万ドルを投資して、インドネシアジャワ島に250人の従業員をかかえる新工場を建設した。インドネシアを選択したのは何よりも人件費が中国よりも安いからだという。また、材料もインドネシアから確保していることから現地で半製品を生産し、中国に輸入した上、完成品を日本に輸出しているという。

 将来的には現地で完成品を生産して直接日本に輸出することも考えている。上海の工場は無くならないだろうが、難しい技術を要する製品は上海で生産し、量が求められる製品はインドネシアになるかもしれないということだ。黄さんは日中関係が悪化した場合に中国を通さない方法で日本向け輸出ができることはよいことだと考えている。

 黄さんの話では人件費の高騰から中国外で生産拠点を持ちたいと願う中国人は増えているはずだという。将来的にはインドネシア進出のコンサルタントのような仕事もよいのではないかと考えている。時代はめまぐるしく変化している。経営者は常に時代の変化に応じて経営を進めなければならないというのが黄さんの信条だ。