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№1143 ヒ素汚染があった土地売買事例

№1143 ヒ素汚染があった土地売買事例
 土地取引では土壌汚染の問題は非常にデリケートになる。特に工場用地の売買では気を遣う。万一、汚染物質があったら、その売主はその除去費用を負担しなければならない場合も出てくる。

 今回紹介の事案は味噌工場敷地を売買したところ、土壌から環境基準を超えるヒ素が検出されたために買主から損害賠償請求をされた事例だ。売主は買主に対して除去、土壌改良費用として2億4007万円を請求した。売買代金は約41億円だから、その5%ということになる。

 今回は売買契約に基づく請求であるため、長いが売買契約の条項を紹介する。
【10条1項】
 売主は本件物件が特定有害物質を使用しない食品工場であり、事業主由来の土壌汚染が存在しえないことを理由に土壌汚染の調査を行わず、土壌汚染の調査は、買主の負担により実施するものとする。
【2項】
 土壌汚染調査の結果、環境省基準・・・を上回る土壌汚染があった場合は、買主は・・・売主は土壌改良もしくは除去の費用を買主に支払うものとし、買主は自ら土壌改良もしくは除去をおこなうものとする。

 本件は環境基準を上回るヒ素が検出されたことは争いがない。しかし、売主はヒ素が自然的原因によるものであって、味噌製造によって生じたものではないとして責任はないとした。確かに、本件ヒ素八甲田山系の温泉水などが堆積したことによって検出されたものである。

 土壌汚染に関する環境基準は環境基本法に基づいて定められている。だだし、汚染が自然的原因によって生じたものとされる場合には環境基準は当てはめられない。これは汚染者負担の原則といって、専ら原因ある者に除去責任を認める趣旨である。本件では味噌工場ということで、ヒ素を発生させることはあり得ない工場であるから、汚染者ということにはならない。

 こうした事情を考慮し、判決は前記条項について、自然発生原因の場合は除去費用の負担は必要ないと解釈した(東京地裁H23.7.11判時2161号69頁)。

 本件は契約条項の解釈の問題として扱われている。しかし、売買契約では本来汚染物質のない土地の購入が期待されている。契約条項にわざわざ環境基準もちだしているのも当事者の期待としては「汚染物質のない土地」という期待があったのではないだろうか。そのような場合にはヒ素の存在を土地の瑕疵(欠陥)と回する余地があるようにも思う。その場合には瑕疵担保責任と言って、欠陥部分について売主に責任を認めさせる余地も会ったのではないかと思う。