№1115 嘆きの天使
ご存じマレーネ・デートリッヒ主演の作品だ。謹厳実直な高校の先生が学生たちを注意するためにキャバレーにおもむく。そこでのショータイムに登場した踊り子ローラに魅了され徐々に関係を深め、最後には結婚した上、道化となってしまうという映画だ。マレーネ・デートリッヒの脚線美がとても有名で伝説となっている。邦名では「嘆きの天使」だが、原題は「DER BLAUE ENGEL」、ブルーエンジェルとなっておりこれもしびれる題名だ。
「美」に対する人間の不条理な心情がテーマとなっている。それは理性では割り切れない崇高なものではあるが、それを堕落と隣り合わせにしているところがこの映画の魅力なのでしょう。分かるな。高校の先生は侮られ、笑いものとなったが、美に生きたとすれば美しい人生だったかも知れない。
私などは「美」にとても弱いので十分注意しなくちゃいけないな。
「美」に対する不条理な心情はこの映画だけではない。映画「ヴェニスに死す」は同じく美に対する人間の無条件の服従と、それがもたらす非現実的な結果が描かれている。これは、名監督ヴィスコンティの最高傑作の一つだ。
「静養のためヴェネツィア(ベニス)を訪れることにした老作曲家は、その道中、船の中で(ちなみにこの船は「エスメラルダ」号といい、後に回想シーンで登場する売春婦と同じ名前である)ふと出会った少年タジオに理想の美を見出す。」。映画に登場するセーラー服姿のタジオはため息が出るほど美しい。まるでギリシャの神々の彫像のようだ。
「ある日ベニスの街中で消毒が始まる。尋ねると疫病が流行しているのだという。やがて自らも感染した彼はまるで死に化粧のように白粉と口紅、白髪染めを施し、タジオの姿を求めてベニスの町を徘徊する。疲れきった彼は体を海辺のデッキチェアに横たえながら友人とはしゃぐタジオの姿を見つめ、波光がきらめくなか笑みを浮かべつつ死んでゆく。流れ落ちる汗と涙で化粧は醜く落ちていく。」
美に悩み、自ら化粧していく姿は無条件に服従して人格を失っていく悲しい様子が描かれている。