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№1098 裁量労働

№1098 裁量労働
 専門業務型裁量労働に名を借りて、めいっぱい働かせていた事例について、裁量労働を否定した事例を紹介したい。労働者の権利をよく理解しておかないと企業経営者としてはとんでもないリスクを背負うことになる。

 専門業務裁量労働制というのをご存じだろうか。
 業務の性質上大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある場合について、実際に働いた時間ではなく、労使協定等で決められた時間によって労働時間を算定する制度である(労基法38条の3、第1項)。

 裁量に委ねる必要がある業務としてはシステムエンジニア、新聞記者、弁護士、大学教授など法律によって指定されている(労基法前条前項、同法施行規則24条の2の2第2項)。この種の労働で典型的なのがシステムエンジニアではないだろうか。

 このシステムエンジニアについて最近裁量労働性を否定した裁判例があるので紹介したい(京都地裁H23,10.31判タ1373号173頁)。この事件では裁量労働であることが否定されたために567万円未払い残業代が発生し、さらにそれには年14.6%の遅延損害金が付された。それだけなく、付加金として567万円が加算されている。付加金というのは労基法違反がある場合に課せられる一種の罰則のようなものだ。

 システムエンジニアは情報システムの設計、開発を行う業務であり、システムエンジニアが作成したプログラム仕様を作成し、それに基づいてプログラマーがプログラミングを行うという仕組みになっているとされている。プログラマーは専門業務型裁量労働制の対象にはならない(労働省労働基準局「改正労働基準法の実務解説」169頁)。

 本件はシステムエンジニアではあったが次の点から裁量労働性を否定した。
① システム設計とは言っても、決められた一部しか行っていないため、仕事に裁量の余地が少なかった。
② 多くのノルマが課せられ、時間的余裕が無いため裁量制を発揮して労働時間を自主的に選択する状況に無かった。つまり、業務遂行の裁量性がなかった。
③ 業務の掘り起こしを命ぜられ、実際には営業の活動もしていた。