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№1069 M&A(事業譲渡)と労働契約の承継

№1069 M&A(事業譲渡)と労働契約の承継
 事業譲渡に伴い労使紛争が生じることはめずらしくない。
 事業譲渡に伴い、特定の社員だけを譲受会社に引き継ぐということは可能だろうか。

 事業譲渡は営業目的のために組織された人的、物的組織を移転させるという売買契約だ。いかなる、物、いかなる人を譲渡するかは売手、買手の合意で決まる。また、社員がいやがったら移転させることはできない。出向とか何か工夫することになる。

 社員が残った場合はどうだろうか。
 事業を譲渡し、売手会社は破産させるということはめずらしくない。社員にしてみれば、事業移転と共に自分も連れてって欲しいと思うだろう。

 しかし、買手会社にも都合はある。あまり、給料は高い社員はいらないだろうし、能力ある社員だけ欲しいと言うの人情だ。中には労働組合に入っている社員は引き継ぎたくないという会社もある。

 そこで、残された社員が新会社への移転を求めて訴訟する場合もある。
 判例タイムズ1372号41頁にはこうした事業譲渡に伴う解雇事件について考察が加えられている。承継させるかどうかは「法人格否認の法理」「包括的な承継契約」「黙示の合意」「公序良俗違反」などいくつか難しい議論がある。

 その上で、実務上の問題点として次の用にまとめあげている。
① 事業譲渡に際して、社員の承継しない旨の明確な文言を作りあげておくこと。
② 承継する社員を選別して事業する場合には選別の条件が明確で、合理性があること。
③ 社員選別に際して不当労働行為(例えば労働組合員を排除する)のないこと
④ 事業譲渡について社員とのコミュニケーションをしっかりすること。
⑤ 事業譲渡の根拠を明確、かつ合理的にしておくこと。
⑥ 残された社員に対する配慮が行われること。