№1066 生き残りをかけて
最近,労働組合の相談をあいついて受けている。
いずれも解雇の相談だが,あわせて未払い残業代も持ち出されている。
解雇は労働者契約法によって制限されている。労働者契約法16条は合理的理由があり,かつ社会的相当性がなければ解雇は無効だとしている。解雇事由はけっこう厳しいから,本当に辞めて貰いたいと思う時は,それなりに説得し辞表を出して貰うことが肝要だ。
ともかく,片方は作業能率の悪い労働者を解雇したところ,労働組合が団交を申し出てきた。本当は整理解雇の事例なのだが,なまじ作業能率の問題だけを争点にしたものだから,私の依頼者は結局組合に押し切られ解雇できなくなってしまった。
この会社は業績が非常に悪化しており,本来整理解雇が必要な事例であった。労働者に対して経営の窮状を開示して,人員整理せざる得ないことを明らかにするべきであった。解雇がうまく行かなかったために経営はさらに悪化していった。
さらに,悪いことに,作業能率を理由にした解雇に失敗したために他の従業員に対する統制がきかなくなってしまった。会社全体にノルマ達成の意欲が失われていき,職場はますます荒れていったようだ。
そして,ついに支払い不能となり,従業員は全員解雇となってしまった。最初の解雇に失敗したために来るべきところまで来てしまった。私の感では,おそらく組合や一部社員に対する恨みをあって,経営意欲を失ってしまったのではないかと思う。つまり,こんなになったのはおまえらのせいだというところを見せつけたいと思ったかもしれない。
この会社がもし,早期に顧問弁護士を雇っていれば,結果は違ったものになったろう。
現在,この社長と今後の方向を協議している。
いろいろ分析すると,事業自体はけっこういいのだ。きちんとやればかなり儲かると思われた。そこで,まず事業を立て直し,確実に利益が出る仕組みを作ることにした。
まず,帳簿を整理した。余計な財産は全て換金した。キャッシュフローを確実に把握し,現金で事業を維持できるようにした。続いて,借金の支払いも払うところと払わないところを選別した。もちろん,税金は全て支払わなければならない。
こうして,毎月,必ず利益が出る仕組みができあがった。こうなると社長もやる気が出てくる。最後の仕上げは,利益が出るようになった事業をどのように売却するかが問題となる。現状は銀行などからの借入が多額にあり,まともに事業を維持することは困難だ。むしろ,支援者を確保して事業を売却する方がよい。
事業の売却は適正価格であれば許される。関係書類を完全に保全して透明性を確保することも必要だ。事業譲渡後の収益から売主に事業譲渡代金を支払うという方法もある。