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№1061 うつ病対応研究会

№1061 うつ病対応研究会
 中小企業家同友会経営相談室ではうつ病の研究に入っている。
 現在,労使関係において「うつ病」をどのように考えるかは大きな問題となっている。社員がうつ病になってしまった場合,中小企業経営者としては本当に頭の痛い問題だ。

 研究会では社労士,弁護士,税理士,経営コンサル,産業医,心理カウンセラーと各専門分野が参加し,職場でのあるべき対応を研究することになっている。
 
 誰だって社員を大切にしたい。しかし,一方でうつ状態で働けない者を放置することはできない。特にうつ病の場合,傍目からはわからない部分もあり,「サボっている人」,「能力のない人」とみられがちだ。本人にとってもつらいし,放置すれば職場の雰囲気は悪くなる。

 研究会ではこれまで2回の会合が行われた。まだまとまらないが,いくつかの視点が提起された。

1. 何が問題であるか
 経営者にとってうつ病が問題なのではない。労使関係にあっては働けないことが問題なのだ。それ以上に社員の内面に立ち入る必要はない。うつ病だから全て否定されることはない。きちんと仕事ができればよい。職場が配慮できるならば,その配慮の範囲できちんと仕事ができればよい。

2. 誰が判断するのか
 うつ病は本人が働けないと判断する。本人の主治医がうつ病と判断する。使用者側が本当にうつ病なのか,どの程度のうつ病なのか判断する。会社の産業医うつ病と判断する。判断はいろいろだ。誰がうつ病と判断するのか,どの程度働けないのか誰が判断するのか難しい問題を提起する。そもそも,周りは変だと思っても本人にうつ病の病識がない場合もある。うつ病かどうか医学的判断なのだから使用者がとやかく言える者ではない。しかし,働けるか否か,どの程度の仕事ができるのかは使用者が専権的に判断する事項だ。

3. 治癒とは何か
 うつ病が治ったというのはまちまちだ。日常生活を維持する上で支障がなければ治癒というのだろう。しかし,職場では日常生活以上の緊張や能力が求められる。日常生活に適応できても,職場に適応できるとは限らない。厳しい言い方をするようだが,重要なのは労働契約に従った労働力を提供できる状態にあるかどうかという点になる。主治医が治癒と判断しても,経営者としては治癒とは言い難いこともある。

4. 情報の非対称性
 うつ病は心の病だ。本人の訴えを中心に主治医が判断する。その情報は従業員側の独占状態にあって,経営者には結果のみが伝えられることが多い。主治医がどのような根拠で,どの程度のうつ病と判断したのか,主治医以外の医師はどのように判断するか,経営者としては経営者なりの情報が必要となる。こうした情報の偏在をどのように解消するかが問題となる。

5. どこまでが経営者の責任であるか
 職場環境がうつ病の原因となることは少なくない。職場はどこまで責任を持つべきだろうか。そうでなくとも,従業員と言えば我が子と同じ,うつ病になったからといってぽいっと放り出すこともできないかもしれない。経営者はどこまで責任を持つべきであろうか。本人が努力するべき部分はないだろうか。むしろ,本人の治りたいという意欲を援助するのが職場の役割かもしれない。

6. 中小企業としての限界をどのように補うか
 中小企業ではカウンセラーや産業医を雇うこともできない。職場の配置換えと言ってもそれほどできるものではない。中小企業故にある能力の限界に対して,「社会的資源」を活用してどこまで対応できるだろうか。

7. いかなる場面で問題となるか
 採用面接で「あなたにはうつ病の病歴はありますか。」と聞くことはできるのだろうか。職場の日常で配慮とはどいうことだろうか。休職を命じるタイミングは何だろうか。働けない以上解雇はできるのではないだろうか。解雇後,労使紛争はどのようになるだろうか。組合が「お宅の職場のせいでうつ病になった。安全配慮責任を取ってもらう。」などと言ってきたらどうだろうか。万一,うつ病が原因で自殺した場合,会社は責任を持つだろうか。うつ病が問題となる場面の設定が必要だ。

8. 企業防衛のツール
 うつ病問題は企業にとって大きな問題となる。企業防衛の視点からの整備は不可欠だ。就業規則の整備,訴訟に備えたうつ病となった従業員に対する対応プロセス,証拠収集など必要なツールが存在する。

9. 労使見解とうつ病
 中小企業家同友会には「労使見解」という重要な考えがある。経営者は労働者をともに事業を維持するパートナーと見,厳しい市場にあってともに戦う仲間であると考えている。経営者は経営に全責任を持ち,雇用確保こそ経営者の最大の責任であると考えている。職場は人間性にあふれた社員も社長も共に「育つ」場であると考えている。企業防衛の視点はこの考えと矛盾しないだろうか。