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№1036 企業分割と債務の承継

№1036 企業分割と債務の承継
 ひところ,企業分割が事業再生に有効だというので利用されたことがあった。分割会社に債務を残し,資産だけを新設会社などに移すタイプの分割だ。放置すれば倒産して全ての資産が雲散霧消する,そうであれば一部でも事業体を残すことが社会的な財の蓄積からすれば有益だという考え方だ。

 確かにそういう側面はある。主要債権者も含めて協議が行われて最良の選択として企業分割が利用されることもある。しかし,そうでもない例もある。債権者に対しては抜け駆け的に実施される例もある。こうした例は濫用事例としていくつか裁判が起こされている。

 裁判の流れはほぼ定着しているかのように見受けられる。
 ① 事業譲渡類似の構成を行い,会社法22条を類推適用する場合。
   最高裁は類推適用を認めるようだが,実際には商号の続用が必要であったり,事前に告知されていたりすると利用できないので使い勝手が悪い。
 ② 法人格否認の法理を利用する場合。これは分割そのものを否定する場合だが,まがりなりにも新設会社があるような事例で,法人の独立性を否定することは難しいだろう。
 ③ 詐害行為取消権を利用する場合
   企業分割後の債権追及としてはこれが一番利用しやすいだろう。
   これは,多額の債務がありながら財産を流出する行為を禁止する条文だ。つまり,企業分割によって財産が流出するので,詐害行為取消権の対象となる。

 ④の詐害行為取消権の行使は何も企業分割だけで利用されるわけではない。事業の重病名部分を他社に譲渡して,自分は倒産させるというような場合に適用の範囲となる。世間からみれば,謝金からは逃げてのうのうと生きているといいう視点もあるだろう。債権者取消権は「そうは問屋が許さない」という条文だ。

 しかし,実務的にはこの詐害取消権はけっこう使い勝手が悪い。まず,詐害行為を知ってから2年で時効消滅する。事業譲渡の場合,機会とか工場の移転のような場合には財産が流出したというのは言いやすい。

 しかし,たとえばサービス業などは机とパソコンぐらいが財産という場合もある。名簿などのれんなどが財産として評価されることもあるが,現実の社会でのれんをいくらで評価するのは難しい。流通市場のない「事業」など価格評価できるものではない。

 債権者としては,譲渡すらあいまいな場合がある。併存して2つの会社が事業を行い,徐々に顧客を移していったような場合にはどこで事業譲渡があったか判然としない。結局逃げられてしまうことになる。