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№1012 人間は機械か?

№1012 人間は機械か?
 最近、経営学の教科書(「1からの経営学」硯学社)を読み始めている。大学1年生か2年生ぐらいを対象にしたわかりやすい本だ。

 こういう本を読んでいると改めてドラッカーの影響力の大きさを理解することができる。ドラッカーの「マネジメント」シリーズ(日経BP社)を読んで、その都度いろいろ考えてきた。今回、教科書を読み始めて、ドラッカーの考えが随所に出てくる。というより、ドラッカーが打ち立てている体系がそのまま生かされている。日本の研究者がドラッカーの影響を受けていることがよく分かる。

 教科書を読んで、いままで断片的にしか出てこなかった知識が改めて説明されていてよい。ドラッカーの著書に対して、独りよがりの解釈だったのではないかと心配だったところが確認できたり、ドラッカーのオリジナルだと思っていたところに、背景に別の研究があることが分かったりする。やはり、学会の標準的なレベル、思想的な傾向を知る上では教科書は大切だな。

 例えば、「経済人モデル」。経済学では合理的人間像を基準に経済を説明する。人々は自分自身の利益のために、最大限合理性を発揮して行動するという人間像だ。社会経済の動きはある程度これで説明できる。しかし、経営学は現場で人を動かさなければならないので、こんな単純な発想だけではおぼつかない。

 そこで、テイラーモデルが登場する。テイラーは工場において「ストップウォッチを用いた時間的動作研究」を行い、単位時間当たりの労働者の標準的な作業を決め、製造現場の合理化を図っていった。

 さらにテイラーの仮説というものがあり、金銭的なインセンティブを上げれば作業効率は上がるという仮説が問題になった。バーバード大学の研究チームは「ホーソン工場の実験」と呼ばれる実験を行った。

 様々な経済的インセンティブが労働者の作業効率にどのように影響を与えるかが実験されたが、どのようなインセンティブを与えても作業効率は向上しなかった。なぜか。それは実験の対象として会社に選ばれたという名誉心が、労働者の奮起を促していたからだ。つまり、「ホーソン工場の実験」は失敗したのだが、ある意味では人は金銭のみに生きるにあらずという点が立証された点で意義深い。

 ドラッカーの教科書ではこうした行動の動機付けについて、多角的に分析されている。賞罰、名誉、共同体的意識、生活上の余裕、文化など人が動機づけられる事情は多様だ。その多様性を前提に、ドラッカー先生は最終的には「責任感ある労働者」(responsible worker)という考えに至ったのではないだろうか。権限が与えられ、会社の目標を理解して責任を果たす、こうした労働者像が現代社会ではすぐれた労働者ということになろう。