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№983 建築基準法違反の請負

№983 建築基準法違反の請負
 建物を建てるときには建築基準法に従わなければならない。日本の建築基準法は日本中どこでも同じ基準を当てはめている。そのためだと思うが、新しい街は全国どこに言っても同じような顔になっている。もっとも、そうは言っても建築基準法がなかったら不良住宅ばかりになってしまうことだろう。危険な建物も増え、町並みはもっと乱れて行くに違いない。

 しかし、土地を精一杯利用しようという要求は後を絶たない。1階を駐車場として建築確認申請し、建築完了した後に部屋に変えてしまうとか、障害者用スペースを後から取り除いてしまうとか、崖に地下室と称した部屋をつくるとか、建築基準法に違反したり、違反ぎりぎりの建物ができたりといろいろあるようだ。

 あるマンション建築業者が違法なマンション建築を請け負った。図面は2枚用意され、一枚は役所に届けるための適法な図面、もう一枚は実際に建てる違法な図面だった。マンションを建築したところ、近隣住民の反対にあい違法建築がばれてしまった。行政は是正を指導して建築業者は是正のための追加工事を余儀なくされた。

 本件の場合、①本体工事に請負代金の支払いが残っていた。また、②追加工事の請負代金も未払いとなっていた。そこで、請負業者は建築主に対して、①、②の支払いを求めて訴えを提起した。

 一審 → ①、②とも支払いを命じた。
 二審 → ①、②とも支払う必要はないとして請求を棄却した。建築基準法違反の契約は違法だから無効で、契約そのものがなかったことになる。だから、支払う必要はないとしたのだ。
 
 そこで、最高裁判決が出された。最高裁は①の本体工事については、公序良俗に違反して無効だとし、②の追加工事については本体の工事とは別工事であり、違法を是正する工事だから有効だと判断した(最判H23.12.16、判時2139号3頁)。

 違法な契約は無効とされる。私たちの世界では「公序良俗」に違反すると言う。法の世界では違法な契約に手を貸すことはできないという考え方があるからだ。例えば人を殺す契約は無効だ。これを有効だとすると、裁判所は殺人請負人に「○○を殺害せよ。」という命令を出さなければならなくなる。

 違法な契約に基づいて既に受け取ったお金は返さなくてもよい。私たちの世界ではこれを「不法原因給付」と呼んでいる。殺人目的で1億円支払った、契約は無効なのだからお金を返して欲しいと言っても返す必要はないということになる。法の世界では違法な行為にはどんな場合でも手を貸さないという考えがあるからだ。結果として殺人請負人は1億円を取得できることになる。

 もっとも、違法建築の請負契約が全て無効となるわけではない。本件は悪性が高かったことや、発注者が一部請負代金を支払ったことなど無効の原因となったと思われる。