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№928 従業員の交通事故

№928 従業員の交通事故
 社用に社員個人の自家用車を利用することはないだろうか。社員が個人の自家用車で事故を起こした場合、社用であるときには会社が責任を負うことがあるので注意を要する。社員は常に任意保険に入っているとは限らない。保険についてはきちんとチェックするか、社用に個人の自動車を使わせないようするか徹底する必要がある。

 従業員が会社の自動車を利用している際に交通事故を起こしたら従業員のみならず会社も責任を負う。これは自賠法3条というのがあって、自動車所有者(運行供用者)にも原則責任を負わせているからだ。免責される場合もあるがめったなことでは認められない。

 一般に従業員が職務に関連して事故を起こした場合、使用者責任と言って雇用していた使用者も責任を負う。民法715条は「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と定めている。自賠法3条は715条の特別法でもある。

 小さな会社では営業などに社員の自家用車を使わせている例がある。この場合、社員が職務中に事故を起こせば民法715条責任を負う。例えば人をはねて死亡させた場合には普通5000万円から8000万円ぐらいの責任を負うが会社はこの金額を賠償する責任を負う。

 社員が任意保険に入っていればよいのだが、もし入っていなければたいへんなことになる。会社は社員の死亡事故に対して数千万円の負担を負うことになる。社員に自家用車を使わせて営業などさせている会社はもともと小さな会社だから一気に倒産の危機に陥る。

 今時、誰でも任意保険に入っているだろうなどと高をくくってはいけない。先日も私の顧問先会社で調べてもらったら、数人が入っていなかった。もっともこの会社では事業で個人の自動車を利用することは禁じていたから実際には問題はないのだが、それでもちょっとした社用で従業員が自家用車を使ってしまうことはあり得る。社用で自家用車を使用することを断固禁じるか、必ず任意保険に加入するよう指導するか徹底する必要がある。

 ダンプ運転中に運転手がてんかん発作を起こして中学生を死亡させた横浜市の事故で、会社は8500万円の賠償を命ぜられた。この事故では会社が同族会社で社あったこと、運転手と社長とは親子関係にあったことから運転手と社長とは緊密な関係にあったため、監督責任者として社長個人にも賠償が命ぜられた。普通は会社が責任を負うことはあっても、社長個人が負担することはない。めずらしい事例だが、会社の責任のあり方を示すものとして意味がある(横浜地裁H23.10.18、判時2131号86頁)。