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№926 製造課長のリベート

№926 製造課長のリベート
 大企業の場合、下請会社などに指示して製品代金の水増し請求させ、下請会社からリベートをもらう者が存在することがある。例えば、製造課長のような一定の地位ある者が私的賄賂というようなものをもらうのである。

 下請会社についても大手メーカーのそれなりの地位にいる人と深い絆を作っておくことで安定した受注を確保できるという大きなメリットが存在する。

 大企業では当然こうしたことを禁じているのだが、民間なので公務員のように「賄賂」として処罰されることはない。では、民間企業にあってリベートにはどんな法的規制があるだろうか。関係者はどのように処罰されていくのだろうか。

 このリベートあるいはキックバックと呼ばれるこのお金の本質は製品代金の払い戻しとして認識される。つまり、本来メーカーが受け取るべき払戻金を「製造課長」が着服したという性格を持つことになる。

 ことが発覚した場合、「製造課長」は背任罪(刑法247)という刑事罰の対象となる。社内の就業規則に照らせば、「製造課長」を懲戒解雇することが可能だろう。不正リベートを理由に懲戒解雇を認めた裁判例はたくさんある。

 下請会社はどうなるだろうか。普通は取引が停止される。リベートを渡してまで事業を継続してきたのだから多くの場合はかなりの取引量だろう。それが停止となると企業としてはかなりのダメージとなる。企業の信用も傷つくだろう。

 リベートの金額多額で、長期にわたるような悪質な事案については「製造課長」とともに刑事告訴されてしまうだろう。金額が多額の場合には大手メーカーから不法行為に基づいて損害賠償請求されることがありうる。もっとも、この場合、メーカーに本当に損失があったかどうかは疑わしい。

 これらの処罰は法的制裁なので、いずれも確固たる証拠が必要になる。それはこんな具合に調査されていく。

 大手メーカーでは最近は内部通報制度が完備しており少なくない事例が内部通報によって発覚している。あるいは、下請会社従業員が社内での不満から大手メーカーに密告することもある。

 メンバーは直ちに内部調査を開始し、「製造課長」のメール、PCのハードディスクといったものを調査する。危ないと思った「製造課長」は全てのデータを消去するのだが、最近はフォレンジック技術が非常に発達しており、PC内の消去されたデータも復元されてしまう。ファイルのパスワードなども比較的簡単解かれてしまう。

 聞くところによると、「製造課長」は社内のPCを利用すると危険なのでウェブメールなどを利用することもあるそうだ。そんな場合でも、下請業者のIDなどからメールのやりとりが分かってくるというからさすが大手企業の調査能力は違う。