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№867 飲酒運転と懲戒解雇

№867 飲酒運転と懲戒解雇

 労働契約法15条は懲戒解雇をする場合でも、合理的な理由があって、懲戒解雇することが社会的にみて相当である場合でなければ許されないとしている。「合理的理由」、「社会的相当性」というのは実は中々難しい。

 公務員の懲戒解雇は一種の行政処分なので、労働契約法は直ちに当てはまらない。しかし、原理は同じである。懲戒解雇としての合理性や解雇処分の社会的な妥当性が問われる。

 高知県知事が飲酒運転した職員を懲戒解雇とした事件は耳に新しいのではないだろうか。飲酒運転ぐらいで懲戒解雇というのは厳しすぎるんじゃないだろうかと思った人は多いのではないだろうか。

 日本の公務員は甘えている。ちょっとはお灸を据えられた方がいいのだと考える人もいるかもしれない。しかし、解雇は人の生活を奪うので、そう簡単に許されるものではない。

 この事例で解雇された職員は解雇の無効を求めて裁判を提起した。一審裁判所は重すぎるとしてこれを無効とした。飲酒運転によって自損、他損を問わず事故を起こした場合、交通違反によって取り締まりの対象となった場合、一律、懲戒解雇という規定は重いというのだ。

 国家公務員の場合、人身事故を起こした場合であっても減給ないし戒告、飲酒運転であっても免職、停職の処分となっている。これと比較しても重いというのだ。つまり、社会的な相当性に欠けると判断した(高知地裁H22.9.21、判タ168号)。

 ところが、控訴審はこれを取消し、懲戒解雇を有効とした。飲酒運転の危険性からすると知事には裁量権の濫用はないというのだ(高松高裁H23.5.10、判タ163号)。もっとも、高裁も解雇権濫用となる場合もあることは認めている。

 ちょっとした違反で一律解雇というのはいかにも厳しい。

※ 労働契約法第15条
  使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。