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№857 メンテナンスの打ち切り契約

№857 メンテナンスの打ち切り契約
 扱う製品によっては長期にメンテナンスすることが前提になっている契約がある。高度な機械などは部品供給や、定期的メンテなすは欠かせない。このような契約を一方的に打ち切ることはできるだろうか。

 機械を購入した側ではむやみに打ち切られたら、他の会社に頼むわけにも行かず困るだろうし、メンテする側も、クレーマーのような顧客にいつまでもつきあうわけには行かないだろう。

 ある病院の診療所では東芝エレベーター株式会社のエレベーターを取り付けた。このエレベーター導入にあたっては遠隔監視メンテナンス契約を締結していた。部品交換したり、月に一度技術員が派遣されて点検したり、常時遠隔監視を進める契約になっていた。

 この事例ではメンテナンスでメインロープ交換後、わずか2ヶ月後にまたメインロープの交換が必要だと告げられた。実際にはメインロープに異常は無かったのだが、異常なしが確認された翌日には遠隔監視装置が正常に機能していなかったなど問題が相次いだ。

 エレベーターという不特定多数の人々の安全にかかわる問題に不信感が生じた病院側はエレベーター機械そのものの交換という要求をつきつけてきたので両者の信頼関係は極度に悪化していったのである。

 みなさんにはこんな経験はないだろうか。大切な機械を導入したが不具合が頻発してどうもいけないとか、逆に、機械を販売したが顧客との関係がすっかり悪化してしまって、対応だけで疲れ切ってしまうということはないだろうか。

 この事例では、東芝側が約款に基づき、契約解除を申し入れてきた。ところが、病院側はこのような解除は違法であるとして解除を認めなかったのである。

 約款に従えば、1ヶ月前に解除すれば一方的に契約を打ち切ることができるとされていた。しかし、このような継続的な契約の場合、継続されることを前提にお互いの事業、お互いの生活が組み立てられているから、いくら約款だからといって打ち切り自由としたのでは、相手に大きな迷惑がかかる。エレベーターのように安全に関わる製品で、定期点検が必要な機械については一方的な打ち切りは困るだろう。
 
 結局、解約権が認められる場合であっても「やむ得ない事情」がある場合には信義則上解除が制限されることになる。信義則というのは契約や法律の原則があったとしても、社会正義に反するということでその原則が制約されるという原則だ。信義誠実の原則という。

 東京地裁は、本件がエレベーターという不特定多数の生命、安全にかかわるものであること、問題の発端に東芝側の落ち度があることから、本件解約は信義則に反して許されないとして、メンテナンス契約の継続を認めた。加えて、病院の慰謝料請求も認容している。