№806 経営が危ないと思ったら
・・・・弁護士、税理士、経営コンサルタントの活用術
1. 管理会計の徹底と専門家、とりわけ税理士の活用
1) 倒産の危機を感じたら必ず専門家と相談することをお勧めします。例えば、明白な売上の減少があって、その傾向が止まないときには、事業者は資金ショートに恐怖にさらされます。この恐怖は社長になったことのない人間には分からないものです。遅くともその段階では税理士、経営コンサルタント、弁護士などの専門家にきちっとした相談を行うことが必要だと思います。
2) きちっとした経営
このきちっとした相談というのは何でしょうか。それは、会社の状況を正確に把握し、社長が平常心をもって経営に臨める状態です。それには次の要素があると思います。
(ア) 経理を正確にする。
(イ) 経理を戦略的にする。
(ウ) 当面のキャッシュフローを予測する。
(エ) 最良と最悪のシナリオを作る。
3) 経理を正確にする
そこそこの企業であれば月次の決算ができる程度には経理ができています。しかし、中には経理の問題を会計事務所に丸投げにしたり、決算期に無理矢理追いつかせている企業もあります。経理がいいかげんな企業ほど倒産しやすいものです。管理会計を徹底するなど、事業活動と経理処理に時間的な差がないよう、事業の実態と経理の内容とが一致するよう経理を正確にしなければなりません。
4) 経理を戦略的に組み立てる
経営が厳しいにも関わらず、企業のキャッシュフローを当座だけに頼って判断していることは論外です。貸借対照表や損益計算書のある程度の理解は必要です。企業規模が大きい場合には貸借対照表の推移も正確にしなければなりません。
それだけではありません。経理を戦略的に利用することも必要です。例えば、特定の部門に会社の命運をかけているような場合、部門別の会計は必要不可欠だと思います。特定の商品、商流に会社の命運がかかっている場合にはその商品、商流に着目した会計が必要です。あなたの会社の当該商品の利益率は適正に把握されているでしょうか。当該商品につぎ込んでいる投資額は適正なのでしょうか。
5) 当面のキャッシュフローを予測する
銀行などに対する返済金は正確に予想できます。それ以上の返済可能なお金(利益、減価償却費、その他借入金)が確保できなければ倒産することになります。
当面借入で預金があったとしても、何ヶ月かでそれが無くなる可能性があります。その場合には新たな借入か、リスケかで対応しなければならない。そのためには、キャッシュフローの予測が正確でなければなりません。
6) 最良と最悪のシナリオを作る
いろいろな資料のもと、売上、ダウンサイジングがそこそこ成功して、切り抜けられる最良のパターンのシナリオを作り、それを目標に経営を進めることになります。こんなと記にも専門家の助言は必要です。
一方で資金ショートした場合の最悪のシナリオを作り、それに備えて生き残りをかけた準備を行うこともあります。そのときには、銀行への支払いを停止しても経営が維持できるか、破産と事業譲渡、会社分割を組み合わせて生き残ることができるか、民事再生などの手続きを利用するかなど、生き残りをかけた最後の手段に打って出るシナリオを作ったりします。
最悪のシナリオがあることで、経営者はある種の覚悟を作り、最良のシナリオに向けて邁進することができると思います。
2. 最悪のシナリオ(資金ショートに陥って支払えなくなった場合)
資金ショートする場合であっても事業を諦める必要はありません。代位弁済、抵当権の実行、破産などしても事業が継続することがあります。この場合には弁護士などの専門家の関与は避けられません。専門家と協力しながら諦めない姿勢が必要となります。
1) 代位弁済
(ア) 保証協会に移る?!、代位弁済の効果
債務が弁済できない場合、保証協会が本人に代わって支払います。これを代位弁済と言います。代位弁済となった場合には債権は保証協会に譲渡されることになります。この場合、抵当権についても保証協会に移ります。代位弁済後は抵当権の実行を阻止するために保証協会と交渉することになります。
(イ) 保証協会との交渉を恐れる必要はありません。
① 保証協会については、かなり柔軟な対応をとるようになっています。基本的には上記の金融交渉と同じ態度で交渉することになります。つまり、資料を誠実に開示して事業の展望を根拠をもって説明することになります。
② 保証協会については、事業についての将来性を示し、一定金額の返済を続けることによって、抵当権の実行を待ってくれることがあります。例えば、毎月5万円程度支払うことによって、実行を待ってくれる例があります。
2) サービサーへの譲渡
支払いが困難になった場合に、銀行などはサービサーに債権を売却することがあります。サービサーについては、最近は事業再生も目的としており、かなり柔軟な対応ができるようになっています。この場合は、債権の一部放棄、長期分割の条件変更も可能性があります。
3) 事業再生のための諸手続
大きな債務が経営上の重荷となって事業が立ち行かない場合については法的手段による整理も検討する必要が出てきます。もし、借金の支払がなければ事業は継続できるでしょうか。その場合には法的手段の検討も視野に入れることになります。法的手段によって借金を切り捨て、事業の再生に取り組むことになります。
法的手段は任意整理、破産、民事再生、事業譲渡、事業分割と方法は限られています。破産はそれで全て終了するのではなく、事業再生の一手段と位置づけられる場合があります。たとえば、採算部門の事業を譲渡し、残った会社は破産させて債務を消滅させる場合などは、事業再生のために積極的に破産手続きを活用する場合にあたります。