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№760 草枕

№760 草枕
 私は中学校ぐらいから夏目漱石を読み始めて、今でも時々読んでいる。
 毎年、春になると決まって読むのが「草枕」だ。

 30才代の主人公が熊本の温泉場を旅行した際の、エッセイような形式で展開する。「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」と有名な書き出しで始まる。春の持つ、超然とした雰囲気が描かれている。

 草枕漱石の芸術論まとめられていて、中身はやたらと理屈っぽい。草枕の芸術論では画家に直接わき起こる感興を芸術の神髄ととらえているのだが、その理屈っぽさはそれとは対照的で、ちょっと滑稽な感じも受ける。しかし、これも、これから新しい世界を作り上げていこうという明治の意欲と理解すれば、いいかもしれない。

 関係ないが渋沢栄一の「論語と算盤」という有名が本があるが、読んでみるとけっこう理屈っぽい。比較的当たり前かなと思うような内容が繰り返し分析的に述べられている。これも、原理までさかのぼって世の中を組み立てていこうという明治の意欲を感じる。

 私が常に漱石に愛着を感じるのは、彼が自我をテーマに格闘してきたからだ。自己決定を中核する西洋の自我に対して、アジア、日本の独自性を発揮しよう格闘した。東洋らしさ、日本らしさとは何かというが漱石のテーマだったと思う。それは「則天去私」の精神にも現れている。

 こうした、西洋に対する日本の自律を目指した明治の精神は学ぶべき点も多い。
 私たちの国は中国、韓国とたくさんの国に追い上げられている。そんなグローバリゼーションの進展の中で、日本としてのオリジナリティを磨き上げると言う気骨とも言うべき、気概が求められている。今の時代には明治の気骨を思い起こすことが求められているかもしれない。