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№753 同じ名前の病院と不正競争防止法

№753 同じ名前の病院と不正競争防止法
 最近、不正競争防止法を活用した裁判が増えているようだ。私も最近類似の事件を引き受けている。
 紹介する事件も医療法人の事件だ 。

 事例は、原告「わたなべ皮フ科・形成外科」という表示で駅看板など出していた。被告は「わたなべ皮フ科」と表示して診療所を開設した。被告と原告の距離は600m程度ぐらいらしい。しかも、被告はかつて原告に雇われていたというのだからややこしい。

 原告は被告の行為は混同の恐れがあるもので、不正の目的で類似の表示を使用する者だとして、不正競争防止法2条1項1号を根拠に類似表示の差し止め、抹消を求めた。

 みなさんはどう思うだろうか。原告は15年以上もこの地域で「わたなべ皮フ科」の表示で診療所を営んできた。こんなよく似た名前では混同されてしまう。「先生引っ越したんか」「息子さんがやってるんか」などと思われてしまう。裁判ではここまで言っていないようだが、要するに混同されるので困るということになる。

 判決は原告敗訴だった(大阪地裁H21.7.23 判時2073号117頁)。
 診療所開設にあたって、都道府県知事に届けることになるが、その場合、自己の名前をつけることになっているらしい。渡辺さんという医師だから「わたなべ」皮フ科は正しい。皮膚科だからわたなべ「皮フ科」は正しい。わたなべ皮膚科は普通にある。

 これが籠橋だったらどうかな。
 たぶんだめであろう。氏名の表示は保護されにくい。本件では、非常に近い距離にあった訳だし、別に「わたなべ」としなくても、「渡部」と表示すればよいだろうと思う。常識的には多少遠慮してちょっと違うようにすると思うのだが。

 ちなみに「不正の目的」の判断基準は次の通り。
 ① 原告表示周知地域との地理的関係
 ② 営業の態様
 ③ 原被告の業種の異同
 ④ 原告の表示の独自性の大小
 ⑤ 被告表示の採用の理由。