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№751 老人との取引

№751 老人との取引
 私は長く弁護士をしてきて、老人の土地が狙われた事例をたくさん見てきた。
 気力も判断能力も低下して、誰にでも友好的になる老人がいる。そのような老人に近づき、不動産を騙し取っていく例は少なくない。

 ひどいケースになると、縁もゆかりもない老人の家に入り込みいっしょになって生活している例がある。時には養子縁組をし、時には結婚したりして老人が亡くなるのをじっと待つケースもある。こんな事例は吐き気がするほど不愉快な事件だ。

 あるいは、よく分からない宗教に乗じて、寄進させたり、土地を売却させたりすることがある。これも許せない。私の扱った事例ではキリスト教をかたって、地獄に堕ちるとか、悪魔にいるとか脅かし、土地を売って一緒に住もうなどと持ちかけた事例がある。老人が意味なく土地を売却することが分かっていながら、不動産業者が手を貸すこともある。

 老人は当然社会人だし、一人前として扱われる。自己名義の財産をどのように処分するかは本人の自由だ。しかし、能力は徐々に衰えていく。全く判断能力が無ければ、法律上は意思能力の欠如と言って、どんな法律行為も無効となる。

 しかし、中途半端に判断できると無効とは言い難くなる。普段、シルバー人材センターに行けるとか、買い物が一人でできるとかいった事例であると、無能力とは言えない。こうしたあいまいな領域を利用して詐欺師まがいの輩が、老人の財産を騙し取っていく。

 大阪高裁は、認知症の高齢者の判断能力の低下に乗じてされた不公正な土地売買を、公序良俗に反して無効と判断した。この事例は、意思能力を欠くというほど認知症は悪くないが、誰にでも「迎合的」な態度を示す認知症老人の事例だ。不動産業業者はそれに乗じて、不動産を売らせた。それを無効とした(H21.8.25、判時2037号36頁)。

 世間の常識からすると、老人の痴呆に乗じて不動産で設けようなどと言うのはお天道様が許さないということになるだろう。しかし、法律の世界は簡単ではない。今回の事件は意思能力を喪失してはいないが完全ではないという事例で、無効とした点、とても意義ある判決である。