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№718 医療法人の持分の価値

№718 医療法人の持分の価値
 医療法人は企業体ではあるが、多くの法的規制があるため特殊だ。法律の規制も多い上によく変わる。顧問先にいくつか病院があるがそのつど担当者から複雑な仕組みを聞かせていただく。初めて知ることばかりで困る。

 これは税理士さんも同じことで、病院経営に専門化しているように思う。私が親しくしていただいている税理士さんに病院経営の顧客を多く抱えている方がいるが、確かに詳しい。

 医療法人は医療法によって規制されている。かつては出資持分があって、脱退や解散時には持分権者は病院の価値に応じて払い戻しを受けた。しかし、平成18年に改正があり従来の出資持分というものが廃止された。但し、従前からの医療法人については経過措置型医療法人として持分が認められている。

 これによると、医療法人は基本財産と運用財産に分けて構成される。運用財産については出資持分の範囲では脱退に伴って払い戻しを受ける仕組みになった。基本財産は譲渡できないし、解散にともなって公益性のある団体に帰属することになった。つまり、個人のものにはならない。

 そこで、問題になるのは持分の価値はいったいいくらかということになる。つまり、医療法人の考え方は財団と社団とを結合させたようなものとなっている。基本財産は個人の自由にならず医療法人の目的に従って処分される。運用財産は個人の自由に処分される性質を持つ。持分の価値は基本財産の価値を除外するべきではないか。

 例えば、院長が息子に病院の持分を譲った場合、持分はいくらと評価されるだろうか。基本財産が24億円、運用財産がマイナス17億円(運用上負債が生じた場合)いうような法人の持分はどうなるだろうか。持分を運用財産基準で判断すれば、無価値となる。しかし、基本財産を含めれば7億円を基準として出資割合で価値を持つことになる。

 最近、持分を新たに割当てた事例(跛行増資事例)だが、最高裁はこの点について、基本財産を含めて考えるべきであると判断した。持分の割当は贈与をみなされ多額の贈与税が課せられることになった。
 
 確かに、持分は運用財産の範囲しか処分できないが、そもそも運用財産と基本財産は定款など変更すれば医療法人ごとに自由に決めることができるため、ある時期、基本財産とされていても、運用財産にいつでも変化させることができる。だったら、持分の価値には基本財産を含めるべきだという理屈だ(最判2小H.22.7.16)。

 疑問はあるが、最高裁は妥当だろう。