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№717 元請けの倒産と下請代金の行方

№717 元請けの倒産と下請代金の行方
 一般に元請工事代金をもって下請業者に支払う義務はない。そのため元請会社が工事代金を受け取って、他の債務に当てた後に倒産されてしまうとう事例は少なくない。

 ところが、元請会社が倒産したが、下請業者が資金回収に成功した珍しい事例がある。

 事案はA社は「すき家加茂店」、「ドッグドーム大堀店」の建築工事を請け負って合計4620万円の請負代金が生じた。元請会社は注文者から5229万円を受け取っていながら、そのお金のうち2760万円を別会社に横流ししてしまった。

 その後、元請会社が倒産してしまいA社はわずか203万円の配当を受けたに過ぎなかった。A社としては未払い請負代金について、代表取締役個人、他の取締役個人、監査役個人に対して訴訟を提起した。その結果、570万円の回収に成功している。A社はこの外にも若干債権回収に成功した。

 元請会社の取締役の中には一人だけ支払わない者がいた。A社はさらにこの一人の取締役の個人責任を追及していったのである。その結果、新潟地裁は、最後の一人の責任を認めた(新潟地裁H.21.12.1判時2100号153頁)。

 この事案の重要なところは、取締役個人の責任を認めたところにある。

 会社法429条は取締役の第三者に対する責任を定める。取締役が任務懈怠により第三者に損害を与えた場合には取締役個人は賠償責任を負担する。この取締役は会社に対して善良なる管理者としての注意義務を負っており、会社の代表取締役が適正に職務遂行しているか監視する義務がある(最3判S.48.5.22判時707号92頁)。

 本件では元請代金を関連会社に横流ししてしまった。社長には当然責任がある。さらに、平取締役にもそれを阻止する責任があったと判断した。

 本件では元請会社が倒産して破産手続きに入ったおかけで責任追及が可能となった。それにしても、破産記録を見なければ横流しの事実は分からない。また、会社が倒産すれば個人にも財産がないだろうと思うのが通常だ。個人責任を追及しようなどと思わないだろう。A社の執念もあったろうし、それに応えた弁護士もいたということだろうと思う。