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№711 会社分割と詐害行為、何が取り消されるか。

№711 会社分割と詐害行為、何が取り消されるか。
 会社分割によって債務を免れることはできるだろうか。

 会社分割によって分割会社(旧会社)はもぬけの殻となり、新設会社(新会社)は優良部門を無借金経営する。これが会社分割による事業再生、債務逃れの手法だ。

 これに対抗する法的手段は詐害行為取消権の行使が最も有益だというのが最近の判例の動向だろう。詐害行為取消権というのは借金逃れのために不当に財産を流出させた場合に、それを取り戻すことができる制度だ。借金逃れのために不動産名義を変更することがあるが、それを取り消して会社に取り戻すことができる。

 会社分割行為という一つの行為によって包括的に組織移転を行うのであるから、取消の対象は会社分割行為ということになるだろう。その場合、新設された会社の設立そのものを否定する必要は無い。詐害行為と利権の行使が財産を回復する行為であるため財産の移転を否定すれば足りるのだろう。

 こうした財産の移転行為を否定するにしても、それを個々の財産を特定して取り戻すことは大変なことだ。それは次の理由による。
 ① 包括的な移転であるため、一体どんな財産が移転したか容易に判明しない。分かるのはせいぜい不動産ぐらいだろう。
 ② 個々の財産の時価評価しなければならない。
 ③ 債務の移転とともに義務の移転もあるため、それとの関係も考慮しなければならない(なお、考慮する必要は無いとする判例もある。)
 ④ 取り戻したところで、換価できるかという問題もある。

 詐害行為取消権では財産の返還を求めることができない場合には価格賠償によって足りる。個々の財産を取り戻す行為の外、個々の財産にかえて価格賠償を求めることも考えられる。

 ともかく、詐害行為取消権が行使された場合には、個々の財産移転を否定するか、価格賠償するかどちらかしかないのであるが、実務的には債権者にとってはかなりしんどい作業になるだろう。