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№709 会社分割と詐害行為取消権

№709 会社分割と詐害行為取消権
 会社分割と債務回避の問題は法律家の世界ではかなり議論が整理されつつあり、対抗手段として最も有効に機能するのは詐害行為取消権だという結論に落ち着きつつあるように思う。しかし、判例は定着して簡単ではない。会社法では会社分割では詐害行為取消権を排除しているようにも読めるからだ。

 詐害行為取消権というのは、不当に財産を流出する者があれば、債権者はそれを取り戻すことができるという制度だ。私たちの取引社会では、最後は土地を売って払ってもらうとか、預金から払ってもらうとか、企業の財産が引き当てになって信用が作られている。財産放出を自由に許せば、「信用」が崩壊し、取引社会は混乱する。そこで、取り戻し制度ができたということだ。

 会社分割の場合、分割会社(旧会社)の財産が分割によって新設会社など(新会社)に移動してしまうので、分割会社の責任財産が失われてしまう。それは正義に反するとうことで分割会社の債権者に取り戻しを認めようということになる。

 詐害行為取消権の条文は次の通りシンプルである。
「第424条
  債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。」

 詐害行為取消権の要件は次の通りである。
① 無資力要件:債務者が無資力であること。支払い不能であること。
② 詐害行為:財産を減少させる行為であること。
③ 詐害意思:関係者が財産を減少させる行為であると認識していること。

 このうち、①無資力については問題なく認められるであろう。②、③については微妙だ。例えば、工場、機械など物を移転させれば何らかの形で「流出」が認定されるかもしれない。しかし、サービスやソフト開発といった業態の場合、必ずしも資本が必要でない分野については何が移転したかは分からない。包括的に移転するために、個々の移転を取り消すことはかなり難しいのではないだろうか。包括的移転全体を否認し、価格賠償することになろうか。

 なお、詐害行為取消権は詐害行為を知ったときから2年で時効消滅し、行使できなくなる(民法426条)。会社分割から2年を超えている場合は追及されないのでご安心ください。