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№649 「冷凍揚げとんかつG」事件

№649 「冷凍揚げとんかつG」事件
 毒物混入のおそれがあるというだけで、売り主は責任を負うだろうか。
 
 中国製冷凍餃子に有機リン系殺虫剤メタミドホスが混入していたという事件は耳に新しいことだと思う。同じ頃、同じ工場で「冷凍揚げとんかつG」も製造販売されていた。被告は冷凍とんかつを輸入し、原告に販売していた。毒入り餃子意見が発覚して以降、原告は冷凍とんかつを利用した商品を回収し、在庫とともに廃棄した。そこで、原告は被告に対して、商品金額、回収廃棄に要した全費用の請求した事件である。
 
 本件では輸入業者である被告と原告との間に売買基本契約が締結されていた。
 基本契約4条には「本商品について、原料納入規格書等に定める品質及び規格を有する、並びに食品衛生法その他の日本国の法律、政令、規則等のすべてに合致する商品として、原告に供給することを保証する」と定められていた。
 
 この契約は売り主が品質を保証するするものだ。これは無過失責任である。売り主に過失があろうが、なかろうが、契約が求める品質を備えなければ売り主は責任を負う。
 
 実際にメタミドホスが混入していれば、冷凍とんかつには「瑕疵」「欠陥」があるのだから売り主は責任を負う。しかし、本件は餃子にメタミドホスが混入してること、冷凍とんかつが同一工場で製造されたことから回収を余儀なくされたもので、実際に冷凍とんかつにメタミドホスがあった訳ではない。
 
 判決は、「社会通念上食品として市場に流通し得る品質」かどうかを「欠陥」の基準とした。その上で、毒入り餃子がマスコミなどで騒がれていたこと、瑕疵の内容が人の重大な健康被害にかかわるものであること、消費者の安全性に対する意識が高まっていることなどから、基本形約4条に言う瑕疵があるとした(大阪地裁H22.7.7判タ1332号193頁)。
 
 確かに法律上「瑕疵」もしくは「欠陥」というのは必ずしも物理的な瑕疵のみではない。社会通念上、商品として通用しない状態も含んだ社会的な意味での「欠陥」を指している。本件では冷凍とんかつには現実にメタミドホスが入っていたわけではないが、同一工場で同一時期に出荷した食品については、疑われるであろうし、売り主としては回収せざる得ないだろう。
 
 近時は生産現場を中国に移し、輸入する中小企業も多い。こうした業者が国内の業者に販売する場合には、こうした基本契約を締結することも多いのではないだろうか。逆に中小企業業者が大手商社から輸入することもあるだろう。
 
 欠陥米を混入して菓子などを販売した業者名が公表され、損害を被った事例もある。そういう点では、毒物混入した疑いだけで回収を余儀なくされた場合の損害については、あきらめずに追及する価値があるかも知れない。