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№639 表明保証 Rep & Warranty

№639 表明保証 Rep & Warranty 

 最近「表明保証」責任をめぐる議論が多く出ている。

 表明保証責任はもともと英米法で考えられた概念で、Representations and Warranties、またはRep & Warranty  とか表記されている。会社の譲渡を含めて事業譲渡などに際して、売り主が契約上負担する責任の範囲を定めようというものである。契約日(クロージング)を定め、会社の価値など重要な要素について取り決めていく。
 
 M&Aにおいて、取引の対象となる事業の価値というのは必ずしも明確ではない。会社を売買すると言っても、当事者が会社のどのような価値に基づいて売買したかによって代金の意味づけが変わってくる。例えば、当該会社の資産、人的組織、許認可、特殊技術や知的財産、ブランド力など企業の価値を決める要素は多い。
 
 また、会社は常に活動しており、活動内容や経済内容によって価値も日々変化する。社会経済の情勢など外部環境にも左右されやすい。海外資産を評価しても為替変動があれば価値は大きく変化する。取引上のトラブルや公害などの賠償請求があれば、会社の価値は下落してしまう。こうした不測の価値の下落に対しても売り主はどの程度責任を負うかを定める必要が出てくる。
 
 さらに、表明された保証内容がいつまで当事者を拘束するかという問題もある。会社は日々動く、社会・経済情勢も日々動く。いつまでも譲渡時の契約が当事者を拘束することは妥当ではない。
 
 中小企業でも最近は事業譲渡が問題になっているが、複雑な事業譲渡であるにもかかわらず弁護士を入れず、そのためのトラブルも少なくない。私が現在扱っている事例ではクロージングが不明確であったばかりに、そのことを利用した売り主が、括弧付きのクロージング日直前に会社の資産を退職金として持ち出している。この場合は買い主は数千万円の価値を失うことになる。
 
 表明保証責任をめぐっての裁判例は少ない。最近の事例で、東京地裁平成22年3月8日判決事例(判時2089号145頁)がある。これは会社の資産が極端に高く評価されている、帳簿に誤りがあるなど様々な論点が争われている。

  が、結局のところ、当事者が表示した契約の射程範囲がどの程度かを細かく解釈することに尽きる気がする。つまり、当該M&Aの代金が、企業価値のどこの部分を重視しているか、どんな資料を信じたのかを基準に支払われたのかという契約の解釈こそが重要ということではないだろうか。その意味では「表明責任」という目新しい言葉を使っているが、内容は特に目新しいものはない気がする。

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