名古屋・豊橋発,弁護士籠橋の中小企業法務

名古屋,豊橋,東海三県中小企業法務を行っています。

№430 こはいかに

№430 こはいかに
 中学校のころ、初恋の女の子から年賀状をもらった。うれしくてうれしくて何度もみた。

 彼女の年賀状にはカールブッセの「山のあなた」という詩が描かれていた。美しくデザインされた背景に、本当にきれいな文字で、山のあなた」が書かれていたのだ。

山のあなたの空遠く
「幸」住むと人のいふ。
噫、われひとゝ尋めゆきて
涙さしぐみ、かへりきぬ。
山のあなたになほ遠く
「幸」住むと人のいふ。

しかしだ。
悲しいかな、当時中学校2年生だった私は詩の意味が分からなかった。

山のあなた」? 何だろう。
「あなた」っていうからには、You、「あなた」と「私」の「あなた」に違いない。山のあなた、というのだから、「あなた」は山に住んでいるだろう。「幸い住む」、これは、まあ、分かる。

つまりだ、彼女も私のことが好きで、わたしは山に住んでいる「あなた」に違いない。「幸い住む」とは、私が住んでいるということに他ならない。「あなた」=私(籠橋)=「幸い」ということなのだ。とてもハッピーな詩ではないか。

でも,「あなた」とは「かなた」の意味で、向こうの方という意味だ。まだ見えぬ山の向こうに幸いがあると聞いている。でもどうしても行き着けない。詩人は見えない夢に憧れ、焦り、涙した。「あなた」は私のことではなかった。全然違う。

当時、私は本当におめでたく、幸せな中学生だった。知らないことを、自分の都合のよいように解釈する、とは実に法律家の素養があったに違いない。

そういえば、「浦島太郎」に、こんなのがある。太郎が竜宮城に帰ってきて「♪帰って見れば こはいかに、もといた家も村もなく」と歌われている。当時、幼児であった私は、これを「こわいかに」=「恐いカニ」と聞いて、確かにカニは恐いと思っていた。

「赤い靴」という童謡があって、
「♪赤い靴、はいていた女の子。異人さんに連れられて、いっちゃった。」という恐ろしい歌だが、私は「異人さん」=「いじんさん」=「いーじいさん」=「良いおじいさん」と解釈して、いいじいさんに連れられてよかった、よかったという歌だと思っていた。