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№421 知らない間に遺産分割協議が? 相続税更正はいつまでにできるか。

№421 知らない間に遺産分割協議が? 相続税更正はいつまでにできるか。
 中小企業は企業と社長との区別があいまいだ。社長個人の相談に乗ることも多い。その一つが相続事件だ。今回は、相続と税務がテーマだ。

 遺産分割協議が未確定な場合、法定相続分に従って確定申告せざる得ない。しかし、その後、法定相続分とは異なった遺産分割協議が成立すれば、それに伴って更正が可能である(相続税法32条)。

 相続税法32条は、「・・・規定する事由が生じたことを知つた日の翌日から4月以内に限り、・・・・その課税価格及び相続税額又は贈与税額につき・・・・更正の請求をすることができる。」と定めている。

 この「知ったとき」というのはいつのことだろうか。

 裁決事例(平成20年1月31日裁決、事例集75集624頁)では、平成10年6月に被相続人が死亡して、その後遺産分割の調停を経ていた。自分は関係ないということで、平成16年には離脱し、平成16年11月に審判が出たものの、確定したのは12月だった。

 死亡して、6年。何とも長いこと争っていたものだ。しかし、この程度ならまれではない。私は12年ぐらい争っていた事例を経験している。その間に関係者が次から次へと亡くなり、ますます収集がつかなくなってしまった。

 ともかく、この事例では、途中で離脱したものだから、本人は平成18年まで何も知らなかった。遺産をもらわないのだから、本来相続税は支払わなくてもよい。しかし、遺産分割ができるまでとりあえず支払わなければならない。

 これをいつまでに修正できるかが問題になったのだが、原処分庁は最初の平成16年11月の家裁の決定が出た時をもって「知った日」とした。
 しかし、脱退した場合、裁判所からは何も通知がない。脱退者は関係者から教えてもらうほか知る方法はない。脱退して自分は関係が無くなったと思うのが普通だし、調停までするような対立の激しい遺産分割協議の場合、親族が教えてくれる保障はない。

 原処分庁の決定は常識に外れている。
 そこで、審判書は処分を取り消し、「知った日」を審判確定を親族から教えてもらった平成18年とした。

 この事件の教訓は、「知った日」というのが、納税者の防御権の保障という趣旨から考えるべきこと、原処分を諦めず、争ったことだろう。税理士さんががんばったのだろうか。