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№391 親方 vs. 弟子 親方が弟子を訴える。

№391 親方 vs. 弟子 親方が弟子を訴える。
 仙台市堤町で堤人形の著作、商標が問題になった事例がある(判例タイムズ1299号283頁)。

 中小企業は絶えず創意工夫して自社のニッチを獲得しなければならない。大企業はすぐまねをするし、一旦動き出すと、中小企業よりも安くてよい品を作る。大企業とも対等に戦うためには、著作権登録商標など知的財産の知識は必要だ。

 この事例は、堤人形の親方のところで修行していた職人が独立して、堤人形の製造販売をしたところ、親方のもっている人形の型そっくりの商品を売り出したところから紛争が生じたようだ。

 問題点は著作権、商標権侵害、不正競争防止法違反と3点で問題となった。中小企業の社長たる者、理屈はともかく、この3点が問題になるぐらいのことは知っておく必要がある。

 それそれ、難しい基準があるのだが、要するに保護に値するだけの創造性、独自性があるかどうかという点が問題となる。

著作権:親方の負け】
 判決文によると堤人形の場合、伊達政宗の命により慶長5年ころより製作された土人形である。「堤」は堤町及びその周辺で作成されている伝統工芸品という意味がある。人形が独自の著作物と言えるためには、伝統工芸に加えて独自に考案した創造性が必要だ。判決文ではそれがないと否定した。

【商標権:親方の負け】
 商標は自分の商品と他の商品とを識別するために用いられるものだ。被告は「堤人形」、「つつみのおひなやっこ」という名称をつけて人形を売り出していた。それが、親方の商標権を侵害するというのだ。しかし、堤人形は特定の商品を表示するものではない。堤町で作られた、堤人形の手法で作成された人形という意味以上はない。親方の商品を表示していない。
 尚、商標の機能だが、自他商品を識別して、出所表示機能、品質保証機能、広告宣伝機能があるとされている。
 コカコーラと言えば、日本コカ・コーラが作っている(出所表示機能)。
 コカコーラと言えば、コカ・コーラの味覚や飲み心地を示している(品質保証機能)。
 コカコーラと言えば、商品の魅力を総合的に表示して顧客を引きつける(広告宣伝機能)。

不正競争防止法:親方の勝ち】
 類似の商品を売る場合には不正競争防止法が問題になる。そこでは表示を盗み取る行為や秘密を盗み取る行為が問題になる。この事件では著名表示冒用行為は否定された。しかし、被告が親方の人形の「石膏型」を盗み取ったとして一部について営業秘密を盗み取る行為として認定され、人形製作が禁止され、商品の回収が命じられた。

【感想】
 弟子が独立することを親方は喜ばなくてはならない。弟子は親方の技を盗んで大きくなる。しかし、親方の「石膏型」を盗み取って、そのまま作るのでは弟子としての義理が立たない。弟子たる者、独立するからには独自の工夫が必要だ。