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№373 正常なる運転資金

№373 正常なる運転資金
 金融検査マニュアルを少しずつだが読み始めている。これは「宝の山」だ。
 平成11年、不良債権処理などが問題なったことを契機に「金融検査の基本的考え方及び検査に際しての具体的着眼点等を整理したマニュアル(金融検査マニュアル)が定められた。

 あまりにも精緻であることや量が多いため、全部を理解することは不可能だと思って諦めている。ちょっとづつかじって勉強していく外はない。

 金融検査マニュアルでは銀行の債権管理のあり方を問題にするが、そもそも対象となる債権は何かが決められていなければならない。その分類に先だって、「分類対象外債権」というのがある。これには、回収にあたって危険が少ない債権があげられている。
 
 この分類対象外債権のうち「正常なる運転資金」はなかなか興味深い項目だ。これは、「営業上必要な決済資金や適正な在庫を保有するための資金など、普通に営業を行っていく上で恒常的に必要な資金」(「銀行交渉術」中村中)とされている。

 在庫や仕掛品、未回収売掛金など、日常的に入と出があるが、足りなくなるときもある。足り無くってもすぐに補充されるから、一時的に立て替えられても問題はない。それに関する債務が「正常なる運転資金」だ。

 この資金の把握は外部からは不可能に近いが、銀行では決算期の勘定科目を基準に判断しているそうだ。

 ところで、金融検査マニュアルによると、「債務者区分が破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先に対する運転資金は、自己査定上は正常な運転資金として取り扱わない。」としている。つまり、企業の信用の格付けが変わってしまうと、それまで全く問題にされなかった、「正常なる運転資金」が「収益償還対象債権」となり、毎月の返済を迫られることになるという。

 実務的には簡単に格付けの変更は行われないだろうし、柔軟な対応があるように思われる。しかし、突然格付けを落とされ、それまで返還を迫られなかった債務まで返還を迫られ、おまけに追加融資を受けられないという事態が起こり得ることになる。

 貸しはがし貸し渋りはこうして生まれるらしい。