№327 船乗りの住所
居住者と非居住者とでは所得税の課税のしかたが違う。居住者は全ての所得を申告しなければならず,非居住者は国内所得について課税される。
船乗りの場合は,1年の大部分を外洋で生活しており,日本国内で生活する期間はわずかしかない。こういう人たちは,国内に住所がないといってもよいのではないか。
東京地裁H2・1・27判決は,国内に土地,建物を所有し,家族があり,住民票があるなどしていることから船乗りであっても国内に住所を有する者として扱った。
問題は,安芸税務署が船乗り達は非居住者であると扱う旨の指導をしていたことだ。税務署が「非居住者」でOKと行っているのだから,それを信じて行動しても許されるのではないか。
税署長は原告の一人には所得税申告しなかったことについて,「無申告加算税」を課している。常識的にこれはひどいと思う。申告しなかったことについて改めて申告するということで決着すればよいと思うが,さらにペナルティを課するのは非道だ。
この「非道」という問題は,法律上は「信義則」という考え方で処理される。これは法律は信義誠実の原則に従って処理されなければならないという,全法を通じて通用する大原理である。
ただし,行政分野の場合,信義則が通用するかについては厳格に考えられている。納税分野では,ある人は支払って,ある人は支払わないというのでは公平に反するからだ。
最高裁は少なくとも次の要件をかかげている(S62.10.30)。
① 信頼の対象となる公的見解の表示
② 納税者による表示の信頼と行動
③ 表示に反する課税処分が行われ,そのために納税者が経済的不利益を被ったこと
④ 納税者の信頼・行動につき,納税者の攻めに帰すべき事由がないこと
本件については税務署が「非居住者」としてよいと言っていたのだから,「無申告加算税」ぐらいは取り消してもいいじゃないかと思う。