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№306 留置権 りゅうちけん

№306 留置権 りゅうちけん
(名古屋発、中小企業法務)

 留置権というのは耳慣れない言葉だ。民法と商法が定めている。
 留置場のことではない。ものを返さなくても良いときに使う言葉だ。

 自動車の修理代金を払ってもらえない場合、払ってもらうまでは自動車を返さないということがある。たとえば、それが10万円程度の代金であっても、1000万円のベンツを留め置くことがある。法律的には許されるのだが、その説明として修理者側には留置権があるという説明をする。

 先日もこんな相談があった。
 製品にトラブルがあったので、請負代金を払わなかったところ、部品製造の取引が中断になってしまった。契約が終わったので金型を返してもらおうと思ったら請負代金を払うまでは金型は返せないと言われた。別の業者に発注しようにも金型がないとどうにもならないというのである。

 これは法律以前の問題で、業者からすれば別の業者に注文しなければ製品ができないから是非もない。製品ができなければ自分のお客さんからの新しい注文も断られてしまうかもしれない。請負代金を払って金型を返してもらうほかはない。時間があれば裁判などもできたかもれしれない。

 金型を返さない業者は正当性はあるだろうか。弁護士の立場からすれば、留置権という言葉が頭に浮かぶ。しかし、簡単ではない。留置権は物と関係のある債権を保護するためのものだ。金型は製品そのものではなく、それを作るための道具でしかない。関連があるは微妙だ。民法留置権微妙だ。しかし,商法の留置権というのがあって,商行為によって占有を得た場合は,商行為によって発生した債務を担保する。本件だと,商事留置権が加納だろう。

 しかし、留置権が働く世界は、法律的世界というよりは、既成事実がものいう現場のやりとりの世界だ。やった者がち、言った者がちというルールが成り立ってしまうところがある。という訳で、微妙な話ならば「ある」と言い切った方が有利だ。本件は商事留置権があるので「ある」と言い切れる。

 もし、私が相手方の弁護士ならば、留置権があると言って、金型引き渡しを拒むというアドバイスをしただろう。こちら側としては、なかなか打つ手はないので,ちょっと無理だが「訴えるぞ」等と言って実力で返してもらうことをアドバイスする。