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№304 不正経理と税金(泣きっ面に蜂)

№304 不正経理と税金(泣きっ面に蜂)
税金訴訟の事例を見ていると、本当に「泣きっ面に蜂」という場面がよく出てくる。税金というのは容赦ないし、税務署はいつも暴力的だ。

東京高裁平成21年2月18日判決の事件は、不正経理の「泣きっ面に蜂」事件だ。

経理部長が架空の外注伝票を操作して、会社の預金を引き出したという事例である。その額は1億8000万円にのぼる。会社としては全く気づかなかったのだが、税務調査が入り、架空の外注費で税金をごまかしていると指摘された。そこで、初めて不正経理が発覚した。会社は民事訴訟並びに刑事告訴を行い、担当部長は民事は敗訴、刑事は4年の実刑判決を受けた。

外注が架空だったから、当然その分利益があったことになる。税務署はなんと、この1億8000万円が架空計上だったとして、更正処分並びに重加算税の賦課決定処分を行った。その額は1000万円を超え,数千万になったと思われる。

詐欺されて1億8000万円失い、さらに税金で数千万円を失うのであるから、税務署というのは過酷なものだ。そして,おまけに重加算税まで課したというのであるから,「暴力」と言っても過言ではない。

この裁判の争点は次の通り。

会社は経理部長に1億8000万円の債権を持っている。しかし、これは不良債権だから損金処理されるべきだというのである。これだけの金額は普通は回収できないことや、会社の被害の大きさを考えたら、大目に見てやれよと言いたくなる。

民法の原則によると、経理部長が詐欺をした時点で、会社は直ちに1億8000万円の損害賠償請求権を持つ。この時点で請求権は益金計上することになる。従って、不良債権となるかどうかは、債権の損金処理の問題で足りる(法人税法22条3項3号)。その場合は貸倒損失を当該年度に落とすことはできないのが通常だ。それなりの回収の努力が必要である(最判小2H16.12.24)。

しかし、法人税基本通達(2-1-43)によると、不法行為に基づく損害賠償請求権の場合は例外を許す。この通達の趣旨は不法行為と言ってもすぐに分からない。相手には資力がないことが多い。そんなのを常に「益金」処理することは現実的ではないからだ。つまり、法人が実際に支払いを受けた日を基準に「益金」とすることを許す。この通達は単純には当てはまらないが,その考えには組むべきものがある。

だったら、この事例も更正、重加算税処分は違法じゃないかということになる。第一審はその通り。ということで、会社が勝訴した。

ところが、高等裁判は原審を取り消し、税務署の主張を認めた。それは、1億8000万円もの損失を長年放置した経過には、会社にも落ち度がある。きちっとしていれば分かったはずだから、例外として通達を使うことは許されないとしたのである。