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№302 動産売買先取特権(改訂版)

№302 動産売買先取特権
発注元が倒産したら,元請けに請求できるか。
これは中小企業法務の中でもよくある問題で,かつ難しい問題だ。

建築工事などでよく,材料を販売した業者が泣きを見ることがある。発注元が倒産した場合に材料などから資金を回収できるだろうか。

販売した商品が残っている場合,その商品には動産先取特権民法311条)という優先弁済権が存在する。つまり,残っている商品ついて競売などに付してそこから売買代金を回収しようというのだ。実務的には,めんどうなので,破産管財人と交渉して,商品を引き上げる交渉を行う。商品の引き上げてについては,案外簡単に応じることが多い。しかし,材料として加工されていると,引き上げる商品はないとということで,債権者としては泣き寝入りになってしまう。

次に,提供した材料で,建物が完成したり,オフィスの内装が終わってしまったという場合がある。この場合は,発注元は倒産した会社に請負代金を支払わなければならない。この請負代金から優先的に材料代金を支払ってもらえるかというのが物上代位(民法304条1項)の問題だ。

つまり,提供した材料は仕事が完成したら残っていない。しかし,その代わりに代金が支払われる。代金は材料が変化したものだ。もともと材料には先取特権があるから,そこから優先弁済を受けることができた。だったら,材料が変化した結果である,請負代金からだって優先的にもらってもいいじゃないか。これが代物弁済という制度だ。

売った商品を,買い主が勝手に販売したとき,転売代金を優先的に弁済に充てることができる。これは売買代金が売った商品に代わるものと判断されるからだ。これを物上代位(民法304条1項)という。ちょっと,一般の人向けに難しくてうまく説明できない。

要するに,納入した商品が勝手に売られたり,請負代金に変化していれば,買い主,発注者から回収できる可能性があるので弁護士と相談して欲しい。


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ここからは法律家向けになります。難しくて,普通のことばでうまく説明できません。ごめんなさい。
売った材料を利用して,建築した場合,あるいは内装工事をした場合に,請負代金債権について,物上代位できるかが重大な問題となっている。判例は否定的な傾向だ。

最高裁は原則として請負代金債権に対して物上代位は否定した。例外的に転売代金と同視できる事情がある場合は認める(最判小決平10.12.18判タ992号90頁)。問題はこの同視できる場合とはどんな場合であるかという点だ。

最高裁判例を調べてみると,ビル内装工事に机や,椅子などを販売した売買代金について,請負代金への物上代位を否定した。これは,ビル内装工事で,請負代金の80%近くがオフィス家具であるにもかかわらず否定する。これはやりすぎではないだろうか。東京高裁の事例であるが,ユニットバスを納入した業者が,請負代金に物上代位することも否定されている。福岡高裁ではシステムキッチンも否定される。

これらの問題は,請負代金と売買代金との同一性判断の基準がどこにあるかという問題である。まず,請負代金の側で当該物品の対価として区別できるかが問題となる。目的物がどの程度加工されるかという点での同一性も判断基準だ。この場合は外形的な同一性,価格の中で占める割合から判断できる同一性も問題視されている。