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№261 450億円の訴訟

№261 450億円の訴訟
 私は株主代表訴訟を担当している。株主代表訴訟というのは取締役などが不正に企業財産を減少させた場合に,経営者責任を追及する制度だ。株主であれば誰でも,原告となって,取締役を被告にできる。

 会社法は企業の自由度を高めたが,その分,経営陣には高い倫理性が求められる。その倫理を担保するのが株主代表訴訟だ。変なことをすれば,経営者は株主に訴えられますよという訳だ。

 私の事例の場合,不正行為を行った代表取締役及び,それを見逃した取締役に対して,約450億円を請求している。勝訴しても敗訴しても歴史に残る裁判になるだろう。

 この事例は廃棄物の不法投棄に関連する事件だが,巧妙なからくりでアイアンクレイーという廃棄物をフェロシルトという「有価物」として,山中に捨てた事例だ。廃棄物処理法を脱法しようとしたこの事例は大きな社会問題となり,県は除去命令を出し,廃棄物の除去費用に450億円が必要になった。このような不正を見落とした取締役の責任は大きい。

 ともかく,企業コンプライアンスに対してはさまざまレポートが出されている。一定規模以上の企業であれば,コンプライアンス体制に対して,いろいろな宣言をしている。これは正しい。しかし,立派な体制,立派な教育システムを見て,「これだけではね」と思うのは私だけだろうか。

 つまり,コンプライアンスを担っているのは,結局のところ,現場の個々の社員だ。社員が仕事に誇りを持ち,不正を許さない,経営者のそうした社員の期待に応えて尊敬を集めていく,こうした現場重視の生きたレポートが無い限り,立派なシステムを見ても,何だか信用できない。

 例えば,ものづくりで誇りを持っていれば,変なものを売っていれば社員は会社を許されないだろう。食肉関係で問題となった偽装表示事件の発端は不明である。しかし,物作りに対するこだわりや,誇りが失われた結果とは言えないだろうか。