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№248 錯誤と納税 (3) 税理士のための教訓

№248 錯誤と納税 (3) 税理士のための教訓
 東京地方裁判所 平成19年(行ウ)第322号
 前回の続きです。

 この事例は遺産分割協議の工夫を税理士が誤ったため,同族会社の株の評価額が異常に高くなった事例だ。 

 一度申告したら原則として変更はきかない。しかし,本件は①錯誤が著しいこと,②当事者には容易に知り得ないこと,③修正申告期限内に申し出ていること,④それが自主的であり,税務署による勧奨などがないことから特別に錯誤による無効を認め,裁判所は減額更正を認めた。やはり,減額修正のの場合は限定されており,この点は税理士さんにとっては重大な教訓だろう。

 私はおもしろいと思うのは,この裁判では「租税法上の信義則」という言葉を使っていることだ。信義則というのは,お互いフェアーにやりなさいという法律上のルールだが,一般には私法領域の原則である。納税のような公法分野ではかなり限定的に用いられる。

 信義則の根拠は,申告期限内に一旦,申告したのだから,それでがまんしなさい,やりなおしというのは信義に反する,アンフェアーだというのだ。
 しかし,ルールを作ったのは税務署側であり,そのルールに従わなかったからといって,アンフェアーというのは,変ではないか。レフリーを相手にサッカーをやって,レフリーが自分のルールでファウルを指摘する,これこそアンフェアーではないか。

 信義則は通常の法律では救えない事例を救済する最後の手段であって,一般的には弱者の道具という印象がある。税務署のような強大な権力を持っているものが信義則違反を言うのは信義に反する気がする。