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№247 錯誤と納税 (2)

№247 錯誤と納税 (2)
 東京地方裁判所 平成19年(行ウ)第322号
 前回の続きです。

 この事例は遺産分割協議をした際に,配当還元方式で株価を計算すれば評価額が小さくなるところ,その適用を受けられなかったという事例である。類似業種比準方式であれば株式の評価額はかなり小さくなる。この適用が受けられるかどうかは,各相続人の持ち株数によって異なってくる。本件はここを間違えた事例だ。

 最初の分割の時に,税理士さんはこれで配当還元方式(税金が安くなる方式)が受けられると思って確定申告をした。その後,最初の分割では税金は安くならないことが判明した。評価額の差は19億円となる。私は計算方式の適用の有無だけでこんなに違って良いものだろうかと思ってしまうが,判決文によると19億円となっている。

どえりゃーことだがや。

 事例では,税理士さんは申告後すぐに気づいて,期限内に,自主的に改めて遺産分割協議をして修正申告したが,税務署は一旦申告したものはだめだと受け付けなかった。税務署とは実に血も涙もない。

 ここでの問題点はこれが果たして錯誤と言えるかという点だ。前回のように民法上の錯誤がそのまま課税上の錯誤として扱われるかと言えばそうでもない。つまり,税制度は複雑でいろいろ工夫をする。今回の事件も相続の分配によって大変な金額の差が出てくる。Aという合意は高い税金,Bという合意は安い税金,関係者はどうしようかと協議してBを選ぶ。それは工夫の過程でしかなく,錯誤と言いうるほど重大なことではないとも言えるからだ。

 つまり,課税方式の錯誤というのは,創意工夫の一つを間違えたに過ぎず,勘違いの領域ではないとも言える。

 次回に述べるが,本件の特殊性は修正申告期限内に自主的に申し述べた点にある。