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№246 錯誤と納税 (1)

№246 錯誤と納税 (1)
 東京地方裁判所 平成19年(行ウ)第322号

 税金は納税制者が確定申告を行うことによって確定する。しかし,勘違いというのは必ずある。この勘違いは「錯誤」という言葉で呼ばれることある。こんなはずではなかったと言うときに,法律はどのような対応をするだろうか。

 本件は当初相続財産の課税価格は約38億円であったものが,実際には20億円程度であったという事例である。これは,同族会社の株式評価について誤りがあった(当初,類似業種比準方式で行い,その後配当還元方式による評価で行った)とする事例である。

 申告後誤りに気づき,更正請求期間内に修正申告をしたが,税務署はそんな誤りは認めないとした。評価に19億円も差があっては課税額の差も半端ではない。納税額の差は1億円を超える。税理士の先生も真っ青だったろう。

 判決は「勘違い」(錯誤)を認めて,納税者の権利(修正)を認めためずらしい事例である。論点は多岐にわたるが,議論すべき点の多い興味深い判決である。

① 錯誤って何?
  合意というのは,お互いの意思が合致して初めて成立するものであるから,もともと意思ががっちしていなければ合意とは言わない。このような勘違いがある場合には法律上「錯誤」と呼ばれ,無効となる。本件は「動機の錯誤」と言われる領域なのであるが,議論が難しいので省略する。
  本件は,みんな類似業種比準方式しかないと信じて遺産分割協議をしたところ,類似業種比準方式で可能だった。「そんなことなら最初から類似業種比準方式で行うのに」と勘違いしていたのだから,民法95条により無効であるというのである。判例は,確かにそういう事情なら無効だろうと認めた。

② 錯誤と納税
  しかし,課税方式で勘違いということになると,単純に許すことはできない。申告した後に,税務署から修正の勧奨を受けるや,別に変更するというのであれば,いくらでも修正で規定しまい,課税行政が安定しない。なんのために,更生手続きを設けて修正できる場合を限定しているか分からなくなる。そのため,最高裁は原則として課税方式の錯誤については修正を認めない。しかし,本件は,その例外に当たるとして,課税方式ではあるが,錯誤を認めたのである。

③ 本件は課税方式であるにもかかわらず錯誤を認めた興味深い事例である。