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№168 社長,あんたはえらい!

中小企業法務 №168 社長,あんたはえらい!

 最近,自動車部品の金型業を目的とする会社の相談を受けた。昨年10月ころから業績が悪化し,あっというまに約6割減産になり,事業はきわめて悪化した。銀行関係の債務を支払うことができない状況に追い込まれた。リスケも含めて支払いの猶予,減額を求めてきたがうまくいかず,すでに信用保証協会による代位弁済が行われた。

 社長の話によると,その間わずか2ヶ月であったという。私の経験ではわずか2ヶ月で保証協会に回してしまった例を知らない。これは異例の措置だと思われる。よほど業績が悪化していると見られたのか。保証協会にはいつでも代位弁済を頼めるのだから銀行はそんなあわてることはないはずだ。もともと何か問題があったかもしれないが,そこのところの事情は分からない。

 こうなると,会社はたちいかない。普通はかなり思い切ったリストラをしても経営を維持することは難しいだろう。そこで,当然解雇が問題になる。しかし,社長は最後まで解雇はしないそうだ。自分たちには技術があるからかならずどこかでうまくいく時期があると信じているという。確かに,特殊な金型を作る会社だ。トヨタもいずれは新車を発表しなければならないから,その時にはこの特殊な金型を求めてくるだろう。それに,社員の給料を削ったところで,いまの状況が好転するほどのにはならないという。社長は最後まで社員とがんばりたいと言っていた。

 このような状態になった場合には,もう最後の手段しかない。生き残るために支払う優先順位を決めて,居直るしかない。電気ガス,家賃や,給料といった最小限の支払いを行い,あとは相手が何を言うか無関係にわずかずつ支払うのだ。電気ガス,家賃,給料の支払いは,ちょうど,呼吸,栄養,水を瀕死の患者に補給して最低限の生命維持をはかるのと似ている。あとは生きるために何もかも犠牲にするのだ。

 「保証協会は踏み倒しますか。現状では保証協会も裁判以外に打つ手はありません。事業を別の会社に売ることも考えられます。」
 「私は踏み倒すことはしたくないのです。」
 「保証協会はすぐには裁判をしないでしょう。会社が生き残るためにこうしたいと伝えればある程度は応えてくれますし,会社に財産がない状況ではつぶすよりわずかでも回収をはかる選択をすると考えられます。」
 
この社長はけっしてあきらめてはいない。