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№2452 難しい復職のタイミング

休職命令とは解雇の猶予を言います

社員が私傷病で働けない状態になった場合、本来解雇となるわけだが、休職命令を出して疾病の回復を待つことが多い。休職期間を経てもなおも回復しなければいわゆる自然退職となる。休職命令とはいっても背後に退職を控えているため、法律の世界では「解雇の猶予」と考えられている。

 

復職の判断は難しい

休職期間中の治療などによって健康状態が回復した場合には「復職」となる。経営者は復職させなければならない。この復職の判断が難しい。雇う側としてはちゃんと働いて欲しいと思うし、雇われる側は少々無理でも雇用を維持して欲しいと思うので、そのせめぎ合いの中で難しい判断を迫られてしまう。

 

完全に回復する必要はありません

復職は「従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合」をもって休職理由が消滅した場合に認められる。しかし、以前と全く同じ状態にならなければならないという訳でもない。というのは、私傷病があって労働能力が低下しても通常はすぐには解雇されない。解雇権はかなり制限されており、少しぐらいの疾患あっても解雇できない。軽快レベルでも復職可能とされてしまうことがある(横浜地裁R3.12.23 2021WLJPCA12236009)。

 

何を根拠に「回復」判断するのでしょうか

健康状態の回復という復職の判断のプロセスは通常は次のようになる。
① 本人からの聞き取り
② 主治医からの情報提供
③ 産業医などによる診断、情報提供
④ 試験出社による判断

 

復職に対する支援の必要性

自然退職とは言え解雇の一種なのであるから、使用者側には解雇回避に向けた努力も必要となる。配置換えなど行うことにより、労働契約上期待された労務の提供が可能であれば行わなければならない。もちろん、労働契約上人との接触が求められる職場でありながら、人とのコミュニケーションが不要な業務しかできないということであれば「回復」とは言えない。つまり、労働契約の内容との関係で「回復」の程度も判断されることになる。

 

社員を大切にするという文化が試されます

誰も好んで病気になることはない。職場としては邪魔者扱いするというのは間違っている。あくまで、本人の回復を願う立場で物事は進められるべきである。ただ、経営者や管理者との常として、「私傷病」をやっかいなものと感じる心に勝てない場合があるのは残念なことだ。