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№2450 医療法人の運営権取得契約の有効性

 

 医療には社会性があるので医療法人は株式会社などと違った規制が存在する。会社であれば株式を譲渡すれば企業の運営権を譲ることができるが、医療法人の場合は単純ではない。

 

医療法人は非営利

 医療については常に「非営利」であることが求められているため、株式会社が医療法人の持分を購入したとしても直ちに会社が医療法人の経営権を持つ訳ではない。厚生労働省の見解によれば、株式会社は営利目的なので医療法7条4項により医療法人の社員にはなれないとしている。
 もっとも営利性を持たない団体は社員になることができる。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000080739_6.pdf

 

出資と経営参画とは別
 株式会社は出資はできる。しかし、社員となって経営に参画することはできない。医療法人は非営利なので法人の利益を配当として出資者に還元することもできない。新医療法では医療法人(社団)の持分に財産的価値を認めていない。
 医療法人では経営と出資は完全に分離していて、出資しても何のメリットが得られない仕組みができあがっている。

 

医療法人のM&A
 それにもかかわらず、医療法人のM&A市場は活発だ。医療法人の多くが後継者不足に悩んでいる。子供が医学部に合格しない場合もある。また、病院経営というのはけっこうお金がかかり借金も多い。病院などを売りたいと思っている経営者も少なくない。
 一方、「医療」という社会性は魅力的だ。また、医療分野は社会保障によって比較的高額でかつ安定的な利益を得られる分野でもある。このため医療に魅力を感じる投資家も少なくない。

 

医療法人運営権取得契約
 医療法の規制がある一方、事業としての医療に関心がある中でM&Aが行われる訳だが、契約も運営権取得契約というやや不明瞭な契約が締結されることになる。
 医療法人は社員総会で理事が選出され、理事会によって業務運営が行われる。運営権取得契約は契約と同時に旧社員、旧理事が辞任し、契約上指定された個人が社員、理事となるという契約だ。
 旧経営陣は退職金や退職後の雇用やアドバイザリー契約などによって、M&Aの対価を得る。

 

医療法と運営権取得契約の危うさ
 医療法は営利目的の団体の介入を防いでいるにかかわらず、経営権取得契約によって、買主が指定する者を理事にすることにより実質的に経営権を獲得しようもので法的危うさを感じさせる契約だ。


 しかし、大阪高裁はこの運営権取得契約を有効と判決した(R3.1.22.判時2535号43頁)。この契約によって会社が社員となるわけでもない。会社が直接医療法人から利益を得るわけでもない。医療法人自体は医療法や医師法によって管理されている。加えて、保険診療自体も厳格に管理されているため、特に医療がゆがめられるという事情はないというのだ。