労働者の能力不足,成績不良,適格性の欠如は,労働義務の不完全履行として解雇理由となりうる。しかし,雇用は労働者の生活に直結するものであるから解雇できる場合を厳しく制約している。経営者にとってはこうした「能力不足」についての解雇について判断に迷うことが多い。
解雇は制限されている
労働契約法16条は「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めている。教科書的には次のようになる。
①「客観的に合理的な理由」
一般的には就業規則上の解雇事由に該当するか判断される。
②「社会通念上相当」
労働者の情状,処分歴,他の労働者との均衡があるか判断される。
③手続的な妥当性
使用者が事情聴取や弁明機会を与えるなどが必要となる。
第1 まず雇用契約を確認する
「能力不足」は契約上期待された能力が不足するという意味だ。従って,経営者としてはもともとどのような能力を期待して雇用したかが問題となる。一般職なのか特別職か,技術職か,研究開発職か,様々だろう。雇用条件通知書などや募集要項などが参考にされていく。
第2 能力はどの程度不足しているか
「不足」といっても様々ある。会社に重大な損失を与えるものであるか,1回限りなのか,繰り返されるのか,繰り返される期間はどうか,それを補うために他の従業員に多くの労力をかけさせるか,給料はどの程度なのかといったことから,契約上求められる能力と現実の能力の差が測られることになる。
第3 指導・教育の効果はあるか
問題となる能力が容易に是正しがたいほど不良か,本人が自己の主張に固執するか,問題の指摘に対し反省しているか,過去に処分をされているか,その従業員と会社とが「能力」の問題にどれだけ対話したかが問われる。
第4 解雇回避の努力
職場の配置転換によって解雇回避できるかどうかも問題となる。但し,特定の技能や能力を期待して雇用する場合には,それ以外の仕事をさせられない場合もある。研究職と採用し,全く研究努力がない場合に事務所に転換すればよいものもでもな。研究職としての職務が他にあるかどうかが重要だ。しかし,小さな職場では回避の努力にも限界があり,経営者は客観的に期待可能な範囲で解雇回避努力を負う。
第5 弁明の機会を与えたか
解雇の結果は労働者の生活に深刻な影響を与える。解雇手続きは慎重になるべきであるということは言うまでも無い。弁明の機会を与え,是正の機会を与えたり,会社としての誤解部分があればそれはそれで会社自ら是正しなければならない。