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№2414 医師の応召義務

 民法上は医院と患者との契約は準委任契約となります。委任契約というのは依頼者の指示に従って依頼者のために「事務」を行う契約です。契約ですから,引き受けるか否かは本来自由です。しかし,医には公共性があります。また,医療行為は医師が独占していることから,相応に公的義務が求められます。
 その一つとして応召義務(医師法19条1項),患者の申込みに応じる義務がありますが裁判所はこれをどのように見ているでしょうか。

 

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応召義務の法律的な意味はやや複雑です

 法律的には応召義務は医師の国に対する義務と観念されます。しかし,患者個人に対する私的関係においても「社会通念上許容される範囲を超えて私法上も違法と認められ、これによって原告の何らかの権利又は法律上保護される利益が侵害された場合」違法とされます (東京地裁平成17年11月15日)。

 

民事上は拒むための「正当な理由」は何かが問題になります

 医師法19条1項は「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」とあるため,裁判例では「正当な事由」の有無が争点なっています。

 

歯科医師モンスター患者に関する判決

 平成28年9月28日東京地裁判決の事例は歯科医師と患者が警察を呼ぶようなトラブルになった事例です。歯科医師が患者に対して「今後X様は当医院での治療をお受け頂けません。またX様が、当医院にお立ち入りになられても、警察が直ちに駆けつけることとなっておりますので、予めご注意ください。」といった書面を送ったところ,診療義務違反,応召義務違反を理由に損害賠償請求されました。裁判所は経過から判断して医師と患者との間には信頼関係がなくなっているため,応召義務に違反しないとしました。

 

院内に長時間居座られた事例

 平成26年5月12日東京地裁の事例は,外科などを有する病院に対して,1年前の手術の説明を求めたり,長時間にわたって居座るなど迷惑行為があった事例です。病院は迷惑行為に対して業務の妨害の禁止を求めました。相手は応召義務があるから立ち入りを禁じるのは違法と反論しましたが,裁判所はそれまでの患者の態度からして信頼な関係が壊れており応召義務はないとしています。

 

結局非常識な行動かどうかで判断される

 このようにみると,裁判所は患者側の非常識な行動,病院の一定の対応,警告などの事情から信頼関係が破壊されているか否かを判断基準としています。治療行為は医師と患者の共同行為という側面があります。そこには患者医師間の信頼関係が必要不可欠であることは言うまでもありません。応召義務も信頼関係を築けることを前提に成り立っていると言えます。

 

受診後は応召義務は問題になりません。

 なお,応召義務は診療前に診療に応じる義務なので,いったん治療を引き受けて中断する場合には,応召義務は問題なりません。この場合は診療契約違反という形で問題になります。

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