工業用大型熱風循環式乾燥装置から発火し、工場が火災で焼失した事件で、乾燥装置製造業者に製造物責任を認めた事例がある(H21.8.7判タ225頁)。製造物責任法は製品に欠陥、つまり「通常有するべき安全性」を欠いた場合に賠償責任を認めている。製造物責任はB to Bでも適用されるので契約に際して製造側は十分注意を払っておく必要がある。
名古屋E&J法律事務所へのお問い合わせはこちら
→ http://www.green-justice.com/business/index.htm
「欠陥」というのが難しいです
通常の使用をしていれば乾燥装置は発火しないというのであれば、機械から発火したということさえ立証できれば賠償責任が認められる。つまり、具体的な発火のメカニズムまで立証する必要はない。
本件では、放火や工場の問題など、装置外に火災を生じさせた事情がないこと、鑑定などより発火に至ったメカニズムが説明できることから装置が原因して発火したと認定した。判決文を見ると、発火のメカニズムの立証に完全に成功したというわけでもないようだ。
対策には説明書が重要
製造物責任は製品の危険性及びそれを回避する取り扱い方法につい説明書が十分であれば欠陥はないと判断される。そのため、製造物責任を回避するために説明書をどのように作り上げるかはとても大切なことで、この点は顧問弁護士からのアドバイスも必要となる。
被害者側の落ち度も裁判では考慮される
使う側に落ち度があるような場合には過失相殺といって賠償額が減額される。この事例でも過失相殺を認めた。裁判所が被害者ももっと注意するべきであったとして次のような事情から過失相殺を認めた。これは説明書記載事項を考える上でも参考になる。
① 異音の有無によって比較的簡単に点検可能であったこと
② 過去に誤作動の経験があったこと
③ 取扱説明書には1年に1度定期的な自主点検をすることを推奨し点検リストも添付されていたこと
④ 制御盤、保安機器については一般に月に一度は点検が要求されていること
⑤ 保守点検契約が推奨されていたこと
⑥ 乾燥機は夜間無人で長時間運転するものであるため異常に気づきにくいため、自主点検が特に求められていること
賠償額の算定では「減価償却」の考えが考慮された
ちなみに賠償額であるが、古い工場や古い機械類について「減価償却資産の耐用年数等に関する財務省令別表第1」を参照して減額し、賠償額を算定している。
また、被害工場では電子トランスを製造していたが、完成品も燃えてしまった。完成品については仕入額を基準に賠償額を認めた。半製品については製造原価を考慮すべきであるが立証されていないとした。
コンピュータ内のデータについてはデータが財産的価値がある認めるに足りる証拠がないとした。「重要なデータであれば、バックアップするのは常識である。」と述べている。