№2333 病院経営の法的検討
1. 最近病院からの相談が増えてきた
病院、診療所関係の相談が増えている。医療は人を救うという崇高な行為なので多くの医師は営利に動くことを嫌う。そうは言っても、医療機関は経営体なので「利益」を度外視する訳にはいかない。ましてたくさんの病床を持つ病院はたくさんの人々が関わるのでマネジメントの発想は不可欠だ。過剰診療を排し、患者の自然治癒力を極力大切にする医療であっても利益をあげることは可能なはずだ。
2. 経営体としての医療機関
診療機関は「医療の公共性」という点から行政上の制約・保護を受ける。たとえば、医療行為を医師に独占させ、保険という形で高額な診療報酬が得られるのは一般企業からすれば特別な世界にいるように見える。しかし、本来は民法などの民事法の一般原則に従い、そこに公的規制が加わることになる。
医師・患者関係=診療契約 →委任(準委任)契約
経営体 → 労働契約や法人としての機関決定手続き
3. 医療機関のどこが特殊か?
「医」は公共性を持つので様々な制約を受ける
① 診療契約
契約は本来自由が原則だが、医師の場合、医師法の管理下におかれ、たとえば「正当な理由」なくして診療を拒めない「応招義務」がある。そのため、クレーマー対応が難しくなったり、あるいは保険行政による診療行為の制約とのジレンマに悩むことになる。「患者の権利」のとらえ方も難しい。
② 社会保険制度としての医療
日本の大部分が保険医、保険医療機関だ。国は国民に医療という現物を「給付」するが、これは医師(保険医)を通じて支給される。診療報酬は保険を通じてえらえれる。患者の一部負担があるが、これは国にかわって代理徴収するようなもので、発想としては源泉徴収と同じだ。そのため、医療行為は行政的な行為とも位置づけられることになる。
③ 経営体として病院、診療所
病院などは院長、医師、看護師、技師と専門職があり、バックヤードには事務局が存在する。経営体としては本来利益をあげなければならないのだが、医療行為は法律上営利行為ではないとされているため、利益発生を抑制する方向でシステムができあがっている。また、医師自身も医は仁術ということで「利益」を考えることを避ける傾向にある。そのため、適正なマネージャーを生み出しにくい傾向にある。
4. 医の倫理
これらの特殊性は結局「医」の持つ高い公共性からくるものだ。公共性ゆえに保護されるのであるが、この保護制度は多分に医師の高い倫理性に支えられているように思われる。一方で倫理という自主的な領域が法的義務にまで高められている部分もあるので善良な医師はとても悩むことになる。