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№115 はげあたま

中小企業法務ではありません №115 はげあたま

 ハゲの恐怖は知らなかった。今日,風呂場の鏡を見たら,なんとなく毛が薄い。さらに短い髪の毛を上げてみると,何だか少ない。毛をいじるたびにフケが落ちてくる。額の面積が,予想以上に拡大しているではないか。毛の密度も明らかに落ちている。髪の毛があるのに頭皮を見透かすことができ、さらに毛根部にふけがたまっている様子まで分かるではないか。まさに,この瞬間ハゲの恐怖が襲ってきたのである。何で私が!というショックは味わってみなければ分からない。

 瞬時に娘との会話が思い出される。「おとうさんがハゲるというのは盲点だったわ。」。何を言うか。事務所で最も若い事務員が確か宴会で「ハゲはいや」などと大声で言っていたっけ。慎みのない娘だ。今度,あいつを懲戒処分にしてやろう。

 小さいとき,番町皿屋敷の映画を見た。お岩さんが突然振り向き,髪の毛がどさっと落ちていたのだ。余りに小さかったので何が何だか分からないが,おしろいをべたべた塗ったお岩さんが突然振り向いて,下からのライトで照らされ恨めしそうににらんでいる姿にすっかり身がすくんでしまった。以来,今になってもあの恐ろしいシーンが忘れられない。突然どさりと毛が抜けていく様子はお岩さんと同じだ。かわいそうなお岩さん。髪の毛が抜けてどんなにつらかったことだろう。今日の風呂場はその恐怖に匹敵する。

 私が小学生の頃,ヘビ女という少女漫画が大流行した。私は夢中になって読み,少女が振り返ると体から鱗が生えて,ヘビの舌を出しているシーンに度肝を抜かれた。首にヘビのシワができ,ひょろひょろと長くなっている姿はとてつもない恐怖だった。夜中にトイレに行けば,トイレの窓からヘビ女が顔を出すのではないかと気が気ではなかった。本当に恐ろしかった。突然の変身はそれほど恐ろしいのだ。

 繰り返すが,変身とはそれほど恐ろしいものだ。グレゴール・ザムザは朝起きたら巨大なゴキブリになっていた。私は風呂場の鏡を覗いてみたらハゲになっていたのだ。アリスは薬を飲んで大きくなったり,小さくなったりしていた。珍野苦沙味先生の奥さんは禿げていた。これは不条理だ。南仏の太陽の光がまぶしい。何が何だか分からない。私は風呂場で実に実存的であった。