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№73 実況 ある倒産事件(はじまり)

 倒産の現場は知っているようで意外に知られていない。あの企業がつぶれたなどといううわさは,業界や仲間内ではあっという間に伝わる。しかし,現実に経営者がどんな体験をしたかはなかなか分からない。

弁護士:どのようなご相談ですか。
依頼者:じつは,うちは来月には資金がショートしてだめだと思うんです。
弁:債務はどのくらいですか。
依:2億円ぐらいだと思います。
弁:よく2億円も借りることができましたね。
依:景気のよい時期もあったので銀行が貸してくれたのです。しかし,5年ぐらい前に,業績も悪くなって,銀行の対応が悪くなって資金繰りがだんだん苦しくなってきたんです。
弁:手形や小切手は利用していますか。
依:手形を利用しています。
弁:手形を持っている業者はどのような業者ですか。
依:堅いところが多いのでそんな変なところはないかと思いますが。
依:この先,どうなるのでしょうか。債権者が押し寄せてくるのでしょうか。
弁:在庫はありますか。
依:在庫はかなりあります。
弁:社員は何人ぐらいですか。
依:15人ぐらいです。
弁:会社が倒産の危機に立つ場合は社長として最後の責任を果たす必要があります。まず,第一に社員の生活のことを考える必要があります。次に,あなたの生活,あなたの家族のことを考えることになります。債権者には申し訳ないのですが,この2つについてはっきりした戦略を立てた上で,考えることになります。
  それから,資金がショートすると言っても,事業はうまく残る場合があります。あなたの,意識や決意次第でぎりぎり生き残ることがあります。

 などという具合に相談が始まる。倒産の危機にあって,社長の人格は試される。どんな時でもあきらめない経営者はよい経営者だ。これは根拠無くあきらめない経営者とは違う。事態を冷静にみて,最善の方法を追求し,実現しようと言うのがあきらめない経営者だ。倒産に際して,弁護士の役割はまず経営者を元気づけるところから始まる。事業は小さくなってしまうが,生き残ることもまれではない。